073:冒険者たち①


 ~ 冒険者ギルド視点 ~





 その魔術が発動した瞬間、『チャンスイ』の町にいた冒険者たちの常識は覆った。


「な、なんだ今の光は……!?」


「おい、気を抜くな!! 敵が来てるぞっ!!」


「グォオオオオオオオオオオ!!」


「しまった……!?」


 突然あらわれた光の柱に気を取られた冒険者が1人、肉人形の接近を許してしまった。


 死体からあふれ出す魔人の魔力によって強化されたその拳は、まともに食らえば一撃で致命傷になるほどの強力な攻撃だ。


(クソ、こんなところで……!!)


 迫りくる死体人形の拳がやけにスローに見える。


 その軌道は男の背中から腹へ薙ぎ払うように振るわれていた。


 自分の背骨が砕ける未来が見えた気がして、男は死を覚悟する。


 バキャ!!


「え……?」


 だが砕けたのは死体人形の拳だった。


 背中に衝撃はあったが、痛みすら感じなかった。


(な、なんだ……?)


 混乱する男の元へと慌てて仲間が駆け付ける。


「こんの野郎おおおおおおおおお!!!!」


 そして横薙ぎの剣が振るわれて……


 ズバアアアアアアアアアアアアアアン!!


「は……?」


「なっ!? あ、あぶねー!?」


「す、すまん!?」


 その一振りで死体人形は真っ二つになって吹き飛んだ。

 斬撃は地面にまで大きな傷を残していた。


 あやうく助けるハズの男まで巻き込むところである。


「な、なんだ……俺たち、パワーアップしてる!?」


「攻撃力も防御力もケタ違いになってるぞ!?」


「も、もしかしてさっきの光は【補助魔術】だったのか!?」


「いや、そうだ! そうに違いねぇ! 俺は見たぞ、空に結界を張った男を!!」


「俺も見た!! きっとあの方が俺たちに魔術をかけてくれたに違いない!!」


「これなら俺たちも戦える!! Cランクの俺でも勝てるぞ!!」


「気味の悪いモンスターどもをブッ殺せえええええええええええ!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 強力なモンスターの襲撃で追い詰められていた冒険者ギルドは一気に勢いを取り戻した。


 1体倒すだけでも数人がかりだった死肉人形をいとも簡単に倒せるようになったのだ。


「戦えない者はギルドへ逃げ込めー!! この町は俺たちが守るぞー!!」


 だが長くは続かなかった。

 倒した死体からあふれた魔力が集まり、より大きなモンスターへと変化する。


「クソッ……なんだこのモンスターは!? 不死身なのか!?」


「キリがねぇ……それどころかドンドンでかくなってるぞ!?」


 勝てない敵ではないが、倒せない。

 そんな得体の知れない状況から冒険者たちの動きに迷いが生まれつつあった。


「お前たち、うろたえるな!! 落ち着け!!」


 そこに現れたのはギルドマスター、サヴィニアだ。


「ギルドマスター!!」


「ご無事でしたか!!」


 サヴィニアは町の人々を避難させるため、真っ先にギルドを飛び出していた。


 町に現れたモンスターは強かった。

 元Aランクであり、魔剣を抜けばSランクにも匹敵するというサヴィニアですら苦戦する相手だった。


「あぁ、お前たちも受けているのだろう。この【補助魔術】のおかげだ」


「すごいぜ、力があふれる……この力があれば俺たちは負けない!!」


「Sランクの敵だろうと負ける気がしないぜ!! まるで神の加護を受けたみたいだ!!」


 サヴィニアの指揮により、再び冒険者たちの動きに迷いがなくなった。


 明確な目的と、そして信頼が彼らを強くした。


「ルードが本体を叩く。我々は時間を稼ぐだけで良い! とにかく町の人々を守るぞ!! 亜人は殺すなよ、彼らは人間だ! 敵に利用されているに過ぎん!!」


「ルードって、最近はいてきたあの新入りか!?」


「次の日にはAランクパーティに誘われたって聞いたが、実力はAランク以上じゃねぇか!!」


「いったい何者なんだアイツは!? そんなすごすぎるヤツがなんで新入りに!?」


「ルードが何者でも関係ないだろう!! さぁ、我が『バニーボール』の強者どもよ!! この災害に適応して見せろ!!」


「「「うおおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!」」」


 サヴィニアの指揮により冒険者たちが吠える。

 もはやモンスターたちは脅威ですらなかった。


 冒険者ギルドは完全な安全地帯と化した。


 だが冷静を装うサヴィニアにとってもルードの補助は異常に感じられるモノだった。


「な、なんだこの力は……。これが【補助魔術】だと言うのか!? す、すごい……!! あっ、くぅ、こんなに適応を感じるのは初めてだ……♡」


 それが補助を感じた時の最初の印象だ。

 思わず声が出てしまったほどだった。


 元Aランク冒険者でもあるサヴィニアにはたくさんの仲間がいたし、その中には補助魔術師も存在した。


 だがどれだけ優秀な補助魔術師ですら、ルードの補助の前では素人同然だった。


 普通なら魔術の重ねがけは2種類ですらできれば上出来。

 3種類が限界とすら言われている。


 だがルードの補助は10種類を超えている。

 あり得ない数の重ねがけだ。


 しかも範囲が町全体である。

 もはや魔術師としての次元が違うと言わざるを得なかった。


 さらにルードは町の全員に防御力上昇の補助を与えて襲われた時の被害を減らし、ギルドの冒険者にはさらに攻撃力や魔力などの戦闘能力上昇の補助を重ねがけをする対象の選別まで行っている。


 もう意味不明すぎた。


 補助魔術師として、などではない。

 あらゆる魔術師と比較して、異常なのだ。


 その存在そのものが全ての魔術師の常識を破壊しているようなモノだ。


 だが、そんなルードだからこそ託せるのだ。


 たった1体で国を滅ぼすとさえ言われる魔人。

 その魔人を1人で封印するなんて普通の冒険者が言ったところで夢物語である。


 その言葉に町の命運を託すなどできるわけがなかった。

 実現できるとしたら、やはりルード以外にはいない。


「頼むぞ、我らが救世主……!!」


 サヴィニアは上空へと昇っていた魔術師の姿を見上げ、祈るように呟いた。

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