072:誰も知らない②
全員をSランク冒険者レベルにする必要はない。
戦闘力を総合的に上昇させるのは戦える何人かだけで良い。
残りの人たちは防御力だけ上昇させる。
本体を封印するまでの時間稼ぎが出来れば良いんだ。
あとはそれをいかに最小限の力で実行するか。
「師匠、封印に使う結界はどれくらいだ?」
「半分程度だ。残りは今から構築し直す必要がある」
「だったらその半分の結界を借りるぜ!!」
「なに!? おい、まて。ワシとお主では術式が違いすぎる……そんな簡単に使いこなせるモノではないぞ!!」
「いいや、この術式はすでに理解した」
「!?」
「結界に補助機能を付与して、この町ごとみんなを強化する!!」
結界の力を借りれば俺の魔力消費は最低限で済む。
範囲もカバーしやすいだろう。
「そんなバカな!? 無理だろ! さすがに!! いくらお前でもこの短時間で理解できるレベルではないハズだぞ!?」
「それができるんだよ。師匠の術式はなら俺は理解できる。だって、俺は師匠の弟子だぜ?」
「いや、弟子にした覚えはないんだが!?」
俺が師匠の魔術書をどれだけ読み込んだと思ってるのか。
不人気な応用書まで読み込みまくったのは俺だけかも知れないと思うくらいだ。
この世界の誰よりも師匠の本を読み込んでいる自信がある。
他に誰も知らない術式の数々。
それを俺と師匠だけが知っている。
確かに師匠の結界は特殊だが、もう理解できている。
使っている魔力の質は違うが、その基礎は同じなのだ。
それを俺用にアレンジすれば、結界の魔力を使いこなせる。
そうすれば俺の魔力の消費は最小限に抑えられるハズだ。
術式の再構成を完了。
結界からの魔力供給に問題なし。
よし、行ける。
「あとは……」
連絡手段だな。
戦える人たちに状況を伝えたい。
地上の戦いを指揮できるように……
「ルード!!」
「サヴィニア!?」
ちょうど良い所にちょうど良い人物が来てくれた。
サヴィニアはギルドマスターだ。
協力を仰ぐにはこれ以上ない人物だろう。
「なんなんだアイツは!? ギルドマスターとして
「アレは魔人だ。封印が解けて復活したらしい」
「魔人……? そんな存在がなぜ……いや、聞いたことがあるな。ローランド領には神話の時代から封印される魔人がいると……都市伝説の類だと思っていたが、実在したのか!?」
「そうらしいな。あの魔人を封印しなおすから手伝ってくれないか?」
「封印!? あれを封印できるのか!?」
「多分な。やってみないとわからない」
なにせ俺も初めてだからな。
「わ、わかった……おそらく他に手はないだろう。我々はお前を信じるしかない」
サヴィニアは細かい事を聞かずに俺を信用してくれた。
この信用を裏切るわけにはいかない。
「ありがとう。サヴィニアたちは地上の敵から町の人たちを守ってくれ。俺たちがその間に封印する」
「わかった。任せてくれ。我々も冒険者のはしくれだからな」
「頼む。それから、できれば亜人たちの命までは奪わないでやってくれると助かる。魔人のせいで亜人化してしまっているが、元は人間だ。それを元に戻せるかも知れないんだ」
「わかった。だが、約束はできないぞ。手加減できる相手ではないからな」
サヴィニアは敵の強さを見抜いていた。
さすがだ。
「わかっている。自分たちの命を最優先してくれ。俺も出来る限り【補助魔術】で力を貸す。指揮を頼む!」
「フフ……君ほどの魔術師の後ろ盾があれば、頼もしい限りだな。だったら適応して見せるさ……地上は我ら『バニーボール』が受け持った! さぁ、君はヤツの方へ行ってくれ!!」
「あぁ、後は頼む。【補助魔術】付与……展開!!」
魔力を変換し、結界に流し込む。
【身体能力強化】、【魔力強化】、【攻撃力上昇】、【武器威力上昇】、【防御力上昇】、【鉄神之守護】、【回避効率上昇】、etc……
簡略化した多数の補助の複合魔術……それは光の柱となって結界からあふれ、町の人々に降り注いだ。
町の中が強い魔力であふれるのを感じる。
補助魔術の展開は成功だ。
「フハハッ! 全く、本当にワシの結界を飲み込みおったか!! なんてヤツじゃ!!」
「師匠、俺たちは本体を……!」
「うむ、行くぞ! 娘、ルードにしっかり掴まっておれよ!! 離れれば死ぬぞ!!」
「は、はいなのです!!」
地上の戦いをサヴィニアに任せ、俺たちは再び空へと上昇した。
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