011:夜の一人旅②


 助けを呼ぶ声に導かれるように、俺は走った。


 久々に使う自分自身への【身体能力強化】魔術……パーティメンバーを常時補助し続けると決めてからは自分に使う魔力なんて残ってなかったからな。


 だが、良い。

 自分自身の体への魔術は調整もしやすいし、なにより魔力が馴染むから効果も高いのだ。


 俺は強化された身体能力に加えて風の魔術で加速……一瞬にして目的地にたどり着いた。


「これは……」


 見るまでもなく感じていた濃密な血の匂い。


 そこにあったのは、何者かに襲撃を受けている荷馬車だった。

 荷馬車の周囲には大量の血だまりが出来ている。


 装備から察するに、商人と、その護衛の戦士だろう。


「遅かったか……」


 商隊はすでに全滅しているようだ。


 だがまだ声の主がいるはずだ。


「ん~、なんだテメェ!?」


 そして荷馬車を襲っているのは、盗賊だった。


 ドクン、と心臓が跳ねた気がした。


「おいおい、今は勘弁してくれよ……」


 盗賊は、俺が仲間たちの常時補助をはじめるキッカケになった存在だ。


 せっかくトランたちから気持ちを切り替えていた所だったのに、今はそんなこと思い出したくもないんだが……。


「チィ、余計な客か……構わねぇ、ぶっ殺しちまぇ!!」


 盗賊のリーダーらしき男が瞬時にそう判断した。


 手下どもが一斉に俺に向かってくる。


 そう。

 こういうヤツらなんだよな、盗賊ってのは。


 自分たちの欲望のためなら平気で人の命を奪うんだよ。


「……だから、こちらも容赦はしない」


 【磁力付与】エレクトリカ


 【暴風起送】ウインドライズ


 【定点魔力】ピンバイス


 【風の刃】エアカッター


 ……魔術合成、【電導風刃竜巻】エレキブレイドサイクロン


 ズギャギャギャギャアアァーーーーーーー!!!!


「ぐわぁあああああああああああーーーーっ!!??」


 雷の魔術で体に磁力を付与された盗賊たちを、同じく磁力を持った巨大な風刃の竜巻が一人残らず吸い込んで切り刻む。

 10人以上いた盗賊たちは、一瞬にして死体の山に変わった。


「……先に手を出したのはそっちだからな?」


 人間を手にかけたのは久しぶりで、思わずそんな言い訳じみた言葉をはいてしまった。

 誰も聞いてなどいないのに。


「しかし、なかなか良い威力だったな」


 初めて使った魔術の組み合わせだったのだが、狙った対象だけを一掃するには都合が良い。

 以前、攻撃魔術の組み合わせに関しての論文を魔術書で見ていたが、それを使う機会がなかった。


「とりあえず、これで危険は排除できたか?」


 どこか近くに生存者がいるはずだが……荷台か?


 俺は荷馬車の荷を覗いてみた。

 すると、かろうじて生き残っている1人の少女がいた。


 正解だったようだ。


「ヒィ! ゲホッ……ゴホッ……」


 殺されると思ったのか、俺の姿を見ると怯えて丸くなってしまった。


 その手には大きな鎖の手錠がされていた。

 奴隷である。


 荷馬車の正体は、奴隷商人の馬車だったのだ。


「もう大丈夫だよ。盗賊は俺が全員、始末したから」


 俺はできるだけ優しい声でそう教えた。


 少女がビクビクと怯えながら、ゆっくりと顔を上げる。


「大丈夫……ではなさそうだな」


 肩から胸にかけて大きな傷があった。


 他の奴隷たちにも同じような傷があり、少女以外は絶命していた。

 この少女も殺されかけたが、運よく致命傷に至らなかったのだろう。


 だが、放って置けば出血で死ぬ。


「力を抜いてリラックスするんだ。助けてやる」


 さてと、回復魔術は久しぶりだけど……どこまでできるか、やれるだけやってみるか。


 まずは【身体再生】で大きな傷をなおして、それから【身体透視】で体内の異常をチェックする。


 うん、いろいろとヤバイな。

 内臓までボロボロだ。


 これは今できた傷じゃない。

 よっぽどひどい奴隷生活を送ってきたんだろう。


 病気もたくさんあるな。

 じゃあ【解毒】しておいて、それから【体力回復】もしとかないと。


 汚れも落とさないとまた病気になってしまうかもしれないな。

 使えそうなのは……こぼれた水だけど【浄化】して、そして【蒸気洗浄】でいっきに洗い流す。


 この服もボロボロだな。

 布は再利用するとして【衣服製造】で形を整えてみるか。


「よし、こんなものかな?」


 さすがにこのまま見殺しにするのは気分が悪いからな。


 とりあえず怪我と病気を魔術で治療してから、体力を回復しておいた。


 キズを治してから近くにこぼれていた水を浄化して再利用して体の汚れをとってやっただけで、その少女は見違えるほど可愛らしくなった。


 服飾デザインまでは勉強したことがないため、俺が作れたのはシンプルな布生地のワンピースだが、サイズはあっているはずだ。


「えっ……? えっ、えぇっ!?!?」


 急に体が元気になったから驚いたのだろう。


 頭部に生えたふさふさの三角耳をピョコンを立てて、少女が跳びあがった。

 そのお尻からは耳と同じ銀色の尻尾がふさふさと揺れている。


 少女は狼型の獣人だったのだ。

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