第30話 姉の悩み


(前言撤回、格好がアレなだけで十分色気が……いや、つなぎ姿はつなぎ姿で他の女子や姉さん達には無い新鮮さが、つなぎ萌えってありなのか? てか俺は今何かいけない方向に目覚めてないか?)


 蓮華のミニスカート、眞由美のエプロン、あずきのフリル姿が脳内再生されてからそこに麻香麻のつなぎ姿が混ざる。


(つなぎも悪く無いか……そうなると……)


 最後の最後に《地味》という漢字の形をした石を背負った制服姿の桜が登場して、歩人はブンブンと頭を横に振った。


(って、さく姉に失礼だろ俺!)


 姉達の妄想を掻き消しながら歩人は気を取り直して麻香麻の体を揺すった。

 わりと激しく五回ほど揺すると、麻香麻は締め切り明けの漫画家のような顔で一瞬目を開けると、


「初号機、完全に沈黙しました」


 と言って、電源が落ちた。


「だったら早く暴走して一八番目の使徒蓮(れん)姉(ねえ)を倒してくれよ」


 すこやかに寝息を立てる麻香麻。


『へんじがない、ただのしかばねのようだ』


 ロボット風の声で歩人がそう言うと麻香麻は寝息を止め、プイッと顔をそらす。


(起きてんじゃねえかよこのオタメガネ! もうこのさいメガネだけ持って食卓テーブルに乗せちまうか? いや、それじゃ眞由姉以外の姉さんしか騙せねえ、やはりここは……)


 二度、コホン、コホンと咳払いをしてから歩人は麻香麻に口を開ける。


「セフィロォオオオオス!!」


 鬼気迫る叫びに麻香麻は、


「エアリスー!」


 と、嬉しそうに叫んで飛び起きた。


「なんでエアリスなんだよ?」

「いやはや、やはりセフィロスと聞いたらエアリスを刀で貫くシーンが印象に残っているので、でもあゆ君、たまにはギルギアとか戦国BASAR○とかガンダ○ネタで起こしてくださいよお」


「俺は格ゲーはストリ○トファイタ○、アクションはロ○クマン派なんだよ」


 途端に表情を改め、


「だから、あえて言わせてもらおう! 南城歩人であると!」


 それに対して麻香麻を余裕を湛えた笑みで、


「そんな事を言うのは君がぼうやだからさ」


 二秒間の沈黙の後に歩人がけだるそうな顔で手をひらひらと振って溜息をつく。


「ほいほい、じゃあ俺は起こしたから早く着替えてメシ食えよ」

「はいはい、わかってますよ」


 そんなやりとりをしながら退室しようとした時、歩人の目に二枚のキャンバスが入り込む。


「……?」


 最初に入室した時は大して注目しなかったソレに、歩人は一瞬足を止めた。


 一枚のキャンバスは壁に立て掛けられ、青い絵の具が塗られているが、どう見ても中途半端で投げ出されたようにしか見えない。


 もう一枚はイーゼルに立て掛けられており、どうやら途中でボツにして新しいキャンバスを使っているというところらしいが、そのキャンパスには鉛筆でよく分からない線が書き込まれている。


 下書きに下書きの上塗り、何かを描きながらイメージがまとまらなかった。


 歩人はそんな印象を受けた。


 いつもならばデザインにはさほどてこずらずにすぐ描き始める麻香麻が、絵の具を塗る段階までいったモノを新しいデザインが決まっていないにも関わらず手放したという事に引っかかりを覚えながら歩人は部屋の外に出た。


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