第21話 うちの姉たちがモテすぎる



 母なずなと姉眞由美が生み出す炊事の匂いに引かれながら、歩人がリビングへのドアを開けると、突然目の前を赤と黒が覆う。


「歩人ー!」


 いつも通り、敵の返り血で染まったと言われている赤いノースリーブのシャツと黒い革のミニスカートを身につけた蓮華がその正体だった。

 蓮華はもがき苦しむ歩人を抱きしめ身を揺らした。


「ああ、やっぱこの抱き心地だよなー、歩人最高!」


 塞がれた鼻と口を蓮華のバストから脱出させ、歩人は蓮華を見上げる。


「朝は随分な悲鳴を上げてたな、麻姉だからってあんなに驚くことないだろ?」

「んな事言ったって、昨日眞由美の野郎が眼もろくに見えないあたしに歩人だって渡すから信じて持って帰って朝起きたら上があって下が無いんだぞ、驚くだろ!?」

「わたしは朝起きたら全裸で、ごにょごにょ……」


 後半は言葉になっていない麻香麻は赤面し、顔を伏せた。


(昨日一緒に寝なくて良かったー)


 歩人は安堵して、胸を撫で下ろした。


「でも蓮姉、俺と麻姉の身長ほとんど変わらないんだから別に俺じゃなくても麻姉でも抱き枕の代わりにはなるだろ?」

「女は抱く時に胸が邪魔なんだよ、特に麻香麻(あさがお)なんてサイズが中途半端だから抱き枕になりゃしないよ」


 蓮華に指を差されて麻香麻は立ち上がる。


「中途半端とはなんですか中途半端とは!? これでも二週間に一回のペースでラブレターもらってるんですからね!」


 すると蓮華は鼻で一蹴して、ただでさえ立派な胸を前に突き出した。


「あたしなんか週一ペースでラブレター三日に一回果たし状が来てたよ」


 すると眞由美が、


「私も週一ペースだったよ」


 キッチンのほうから母なずなが、


「はいはーい、ママは週二ペースだったよー」

「おめえらどこのアイドルだ!! つうか蓮姉の果たし状は自慢すんな!!」


 血縁者達のクオリティの高さを実感しつつ、歩人の目は食卓テーブルに座るあずきと桜に向く。


「っで、あず姉とさく姉ってどんくらいのペースでもらってたっけ?」

「う~ん、ボクは中学になってからはもらった事ないけど代わりに『お兄ちゃんについてこない?』っていうふうには週三ペースで言われるようになったよ」


(あず姉それマズイから!)


「あたしは……もらったこと無いよぅ……」


(地雷踏んじまったよおい! いや、ここはミミックにしておこう)


 花の五人姉妹と名高い南条家一地味で目立たない桜の落ち込み方に脳内でよく分からない補正をしながら、歩人とあずきが桜を慰める。


「いやほら、モテるって言っても眞由姉の場合ストーカーに狙われたりしてたし良い事ないって」

「そうそう、さくちゃんは眞由お姉ちゃんみたいに変態さんに狙われなくて幸せなんだよ」


 ちなみに南条家の母なずなと南条家の良心眞由美はキッチンに味噌汁を取りに行っている。

 その間も蓮華はまだ麻香麻と言い争いをしており、歩人はそちらの収集に向かう。

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