第41話 へ、へんたいだああああああ!
「ハァ ハァ ハァ」
結局、家までノンストップで全力疾走をした歩人は疲労を極めし過労神と化して家のドアノブに手をかける。
「ただいまぁ……ったく、ほらあず姉、家についたんだからさっさと降りろよ」
「う~ん、ムニャムニャ」
「ムニャムニャ?」
歩人が振り返り背中のあずきを見ると……寝ていた。
完全完璧に、疑いの余地も無く洪水のようにヨダレを流しながら寝入っていた。
(さっきから背中が冷たかったのはこのせいか……)
「おかえり、あゆちゃーん」
五人姉妹の特徴全てを備え、あずき並の幼い笑顔でトタトタと出迎えてきたのは、当然に歩人と五人の姉達を生んだ母親なずなである。
「あれれ~、あずきちゃん寝ちゃってるぅ~」
「俺の背中で寝むっちまったらしい」
「もお、しょうがないな~」
そう言ってなずなは赤子を扱うようにしてあずきを抱き上げるとそのままあずきの部屋へと運んで行く。
その最中、歩人はなんとなく、なずなとあずきの胸を頭の中で比べ、
(突然変異かな?)
などと考えていると。
「あっ、その制服洗うから洗濯機に出しといてね」
と言われて我に返った。
「わ、わかってるよ」
「というわけで、今日は数学の勉強をしちゃうよー」
晩御飯を食べ終わった後、歩人はファンシー過ぎるあずきの部屋で勉強を教えてもらうところである。
テーブルの前にはホワイトボード、その前に立つあずきは白衣に伊達メガネ、指揮棒を装備したエセ教授丸出しの格好をしている。
ちなみに鼻とヒザには伴奏工(ばんそうこう)をつけたままである。
「はーい、生徒からヨダレ魔人に質問でーす、なんでいつも使いもしない道具を揃えてるんですかー?」
「むぅー! 謝ったんだからヨダレ魔人とか言わないでよー、それとこういう小道具は気分を出すのに最適なのー!」
ぷくっと頬を膨らませて可愛く怒るあずきだが、実のところ言うと、あずきはかなり勉強ができる。
将来は眞由美の入った看護学部ではなく、蓮華と同じ医学部に合格し女医になるつもりらしく両親からも期待されている。
(ったく、これで全国模試六位だってんだから信じられねえよな)
ちなみにケンカ最強の蓮華は四位だったのだから人は見かけによらないものである。
「そうだあず姉、ノートの使い方参考にしたいからノート見せてくれよ」
「いーよー」
鞄がをガサゴソと漁り、中から可愛らしいクマの顔がプリントされたピンク色のノートを取り出して歩人に投げ渡す。
「さてと、全国六位様のノートはっと」
全国トップクラスの秀才はノートをどのようにまとめているのか、期待してページをめくると、一瞬で歩人の顔に影が差し込む。
「あ、あず姉……これ……」
そこには巨大な、あまりに巨大な、ページの半分以上を覆うほどのサイズのシミがついていた。
「ボクのヨダレだね」
「寝てんのかよ!? こんなんでノート提出どうしてんだよ!?」
「そのまま出してるよ」
「授業中寝てますって自白してるようなもんじゃねえか!」
「えー、でも秋葉先生はいつも喜んで受け取ってるよ」
「その先生マズイだろ!」
「あっ、それといつもノートが返ってくる時ってシミが大きくなってるんだよね」
「警察呼べー!! 絶対そいつ舐めてるだろ」
「うーん、一応蓮お姉ちゃんに言われて返却されたノートは捨てるようにしてるけど秋葉先生はそんなに悪い先生じゃないよ、ただボクを見る時の目が血走ってて呼吸が荒いだけでボクと会ったら必ず挨拶してくれるんだから」
「そいつ死刑決定!」
そんなやりとりをしながら、夜は更けていくのだった。
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