第45話 積極的なロリ姉



 作戦は単純、歩人が隙間の入り口を形成する鉄骨が崩れないよう支える。


 その間にあずきは隙間の中へ入り子供と接触し、必要なら挟まっている手足の位置をズラし、子供を抱き抱える。


 麻香麻はあずきの両足首を掴んであずきが合図したら引き上げる。


「じゃあ、作戦スタートだよ!」


 あずきが鉄骨の山の隙間に入り、麻香麻があずきの足を持ち、歩人があずきの入った鉄骨の入り口を支える。


 だが、今までのように鉄骨を一本ずつ持ち上げるのと違い、何十本という鉄骨の山を支えるのは想像以上の重労働であった。


 歩人の言うとおり、鉄骨の山は徐々に自重で崩れ始め、それに比例して歩人の負担も増していく。


「!!?」


 一度、鉄骨の山が大きく軋んだ。

 歩人の負担が倍化する。


(ヤベ……これ筋肉イカレるぞ……)


「大丈夫ですかあゆ君!?」

「ああ……何とかな……あず姉、そっちはどうだ?」

「今両腕を外したところだよ、でもこの子の靴が引っかかってて……」


 そこで、山がさらに軋んだ。


 力み過ぎた歩人の血管が切れて鼻から血が流れ出す。


 山が崩れそうな事、歩人の負担が尋常ではない事は誰の目から見ても明らかである。


 そう……それは幼い目から見ても明らかだった。

「やめてお兄ちゃん!」


 声の主は岡崎明美である。


「もう無理だよ! このままじゃおにーちゃんがどうかなっちゃうよ! おねーちゃんも早くでてきてよー!」


 幼い少女の悲痛な声に、だが歩人は頑として聞かない。


「明美ちゃん……悪いけどそれはできないんだよ」

「なんで!? だってこのままじゃ……」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんはな、将来お医者さんになるんだ……だから人を見捨てちゃいけないんだよ……」

「でも……」


 涙を流す少女に、歩人は言い放つ。


「それにな、あず姉がやるって言ったんだ……あず姉が決めた、だから俺は俺にできる最善を尽くす! そうだ、姉さんが体張ってるんだ、だったらそれを命賭けで守るのが……」


 山が再度大きく軋み、高度を落としかけたと同時に、歩人の肉体が咆哮した。


「弟ってもんだろうがぁあああああ!!」


 山の崩れが止まり、それどころかわずかに持ち上がった。


「引き上げて!」

「ハイッ!」


 あずきの合図で麻香麻はあずきの足を引き、鉄骨の山からは小さな男の子を抱き抱えたあずきが脱出、歩人も鉄骨の山から離れ、一切の支えを失った鉄骨の山は無理に積んだ積み木のように崩れ落ちた。


 けたたましい金切り声を上げて静まり返った鉄骨の山だった場所を見て、歩人とあずきは安堵した。


「あっ、麻お姉ちゃん、この子お願い」

「あっ、ハイ!」


 あずきから手渡された子を抱え、麻香麻が病院の中へと走った。


「やれやれ、一時はどうなる事かと思ったぜ」

「ほんとだよねー」


 二人で笑い合い、その中で歩人が自分の腕の異変に気づく。


「どうしたの?」

「……いや、どうやら、うん……肩から先がまったく動かねえ」

「……う~ん、やっぱ無茶過ぎだみたいだね」

「ったく、俺まで怪我人かよ、学校の勉強どうすりゃいいんだか……」

「まあまあ、腕が回復するまではボクがみっちり勉強教えてあげるし、身の回りのこと、ぜぇーんぶやってあげるからね」

「はいはい、よろしく頼んだぞ……」


 歩人が大きく息を吐くと、明美が近づき、


「おにーちゃん……」

「んっ?」


 しばらくの間、下を向きながらモジモジしていたが、少しすると顔を上げて言った。


「あたし、手術受ける!」


 あずきの為に死力を尽くした歩人の姿が何かしらの勇気を与えたのだろう。

 今の明美の目には、揺ぎ無い意思が感じられた。


 ほんの僅かな時間、歩人とあずきは驚いたが、すぐに温かい目で明美を包み、頷いた。


 すると、歩人はいつのまにか、あずきがやたらと紅い顔で自分を見ている事に気付く。


「どうかしたのかあず姉?」

「フフ、あーちゃーん」


 あずきは猫撫で声を出しながら歩人の首に腕を絡ませる。


「さっきの、ボクを命賭けて守るっていうの、すっごく嬉かったよぉー」


 今までに無い程目に星を散りばめるあずきに、歩人はやや気圧されて言葉が出ない。


「ボクもね、あーちゃんの為に命賭けれるよ、だってねー、ボクねー、あーちゃんの事ね」


 あずきが歩人の頭を抱き寄せる。


「だぁい好き」


 あずきの小さな唇が歩人の口を吸う。


 あずきの舌が歩人の口内に入る。


 恥も外聞も無く、まるで世界に二人しかいないようにあずきは舌をもっと、もっと奥へ入れようと口に食いついてくる。


 満身創痍の、まして両肩から先がまったく動かない歩人が抵抗できるはずもなく、口内全てをあずきに支配され尽くして、言いようの無い羞恥心に全身を襲われて顔が熱くなった。


その様子を余す事無く目に焼き付けてしまった、まだ八才の明美はタコのように顔を紅くし、両手の指の隙間からこちらをガン見している。


 二人の口が離れると今度は頬をつけて全身を絡み付けるように抱き付いて、あずきは甘い声で言った。


「あーちゃーん、だぁい好きぃ」

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