第11話 姉の為なら体を張ります!
一〇分後、桜の視界が捉えたのは巨大な鉄橋だった。
古くなり、危険だからと使用禁止になった錆びだらけのソレは月明かりだけの夜の世界にあっては周囲に巨大な影を落とし、その不気味さから周囲の気温が下がった気がした。
「ほら、この先にあたしの友達が待ってるから」
言いながら立ち入り禁止の札が下がっている鎖をまたぐ山岡に桜の足が止まる。
「や、山岡さん、ここ立ち入り禁止だよ」
「堅い事言わない言わない、ほら、桜も入った入った」
手招きする自称友達の山岡に、桜もおずおずと張られた鎖の柵を越えて行く。
鉄橋はその大きさに見合った長さがあり、人影を確認するのには三分ほどの時間がかかった。
最初は新しい友達ができると期待していた桜だった。
しかしその影がより鮮明になるに伴ってその期待は掻き消えた。
一〇人、二〇人、それ以上の数の影は一人残らず男だった。
「男の子……?」
ただでさえ弟の歩人意外の男子と接した事の無い桜は、その男子達の数に足を止める。
実際、桜が今までの人生の会話をした事のある男は血縁者しかいない。
無視できない精神的抵抗感、それでも、なんとか前に進もうとすると、座っていた男子は立ち上がり、全員がこちらを見据えるとぞろぞろ一斉に歩き出した。
「おう、遅かったじゃねえかサチ」
「ごめんごめん、ちょっと手間取っちゃってさあ」
「おっ、その子が桜ちゃん?」
「へえ、かわいいじゃん」
近くまで迫ってきた男子達は全員髪を金や茶に染めワックスでセットしている。
服装はかなりラフで鼻や耳にピアスを通している者も少なくない。
その姿にもまた、桜は抵抗を覚えた。
桜の最も良く知る男子はそんな事をしない。
歩人は髪を染めなければ固めもしないしワックスもつけない。
極端に短髪でもなければロン毛でも無い。
ピアスもしないし、刺青などもってのほかだ。
何十人といる男子達は、桜に近づくと足を止める者もいるが、大半はそれを越えて桜の横に、そして後ろへと通り過ぎる。
「?」
それはつまり、桜を完全に取り囲む陣形に他ならなかった。
さすがの桜も、現状の違和感に気付いた。
そして、男達の向こう側の光景に桜の表情が固まる。
「えっ?」
桜の目に、山岡が一際背の高い男から数枚の紙幣をもらっているのが見えた。
途端に、桜の中であらゆる記憶が掘り起こされた。
それはドラマや漫画にあったシーン。
それは蓮華から聞いた恐ろしい話。
桜はソレを必至に拭い去ろうとして、だが確信だけは膨らんでいく。
「ねえ、山岡さん、その……お金は?」
震える声で助けを求めるような目をした桜に、山岡は顔を向ける。
そこにあったのは今までの優しい笑顔ではなく、人を見下し、嘲笑う黒い顔。
「何って、ここまで来てあんたまだわかんないの? ちょっとちょっとぉ、いくら名前が桜だからって頭ん中春すぎない?」
「あの……あたし達……親友……」
親友という単語が出た瞬間、山岡を引き金にその場にいた全ての男子が下卑た笑い声を上げた。
『ハハハハハハ!!!』
「アハハ、あんたバッカじゃないの? あたしがあんたと親友? なんであたしがあんたみたいにトロい奴とつるまなきゃなんないのよ?」
「だ、だって、山岡さんのほうからあたしに……山岡さん周りから勘違いされて悲しいって……」
うっすらと目に涙を浮かべる桜の姿が愉快で、山岡サチは一瞬笑いを堪え、一度に吐き出した。
「桜、アンタって本当にさあ……!!バァアアッカだよねぇー!!」
背筋に寒いものを感じながら、桜は一歩下がった。
「あたしが悲しい? そうそう、あたしはこんな格好をしているけど別に何も悪い事をしているわけじゃないし、なのにクラスメイトも教師も勝手な噂話を信じてみんなあたしを軽蔑する。本当はみんなと仲良くしたのぉ……ってあんたこれ普通信じないよマジで!」
「うそ……」
足場が無くなるような浮遊感と目の前が暗くなるような絶望感に体を支配され、桜は力いっぱいに声を上げる。
「ウソだよね山岡さん!? これ全部おふざけなんでしょ!? ねえ山岡さん!」
「ウザイよ」
笑い声を消し、冷め切った顔でそう言うと山岡は舌打ちをして言葉を続けた。
「やるならさっさとやっちゃいな、こんだけの人数いたら時間かかるんだからね」
山岡の声を合図に桜を取り囲んでいた男達は一斉に襲い掛かると桜の服に手をかけ、脱がすなどと面倒な事をせず。力任せに剥ぎ取ろうとする。
欲情した男達の圧倒的な力に桜はロクな抵抗もできずに体の自由を奪われ尽くした。
「ヤダぁ、こんなのやだよぉ、誰か……誰か……」
涙を流し、男達の期待通りにイイ声で泣き叫びながら桜は空を見上げた。
「歩人くーーん!!!!」
「サクネェッッーーー!!!」
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