第29話 姉に興奮しちゃう
「………………」
白い天井を見上げながら、南城歩人は昔の夢に気を落とした。
あの時、自分は姉に酷い事を言った。
麻香麻は何も悪く無い、あの男子達が馬鹿だっただけだ、それは分かっている。
それでも、子供の頃の自分は虐められた事が悔しくて、哀しくて、八つ当たりするものが欲しくて、自分の事を心配してくれたにも関わらず、虐められたのは麻香麻のせいだとして、あんな事を言ってしまった。
「アサガオお姉ちゃんなんか大キライだ!」そう言われた時の麻香麻の顔はハッキリとは覚えていないが、寂しそうな顔をしていたのだけは覚えていた。
勿論、あの時は自分も麻香麻も子供だったから、お互いにその時の事を理由にギクシャクすることも無かったし、次の日にはまた一緒にテレビゲームをやった事も覚えている。
「………………」
麻香麻は少しも自分を責めなかった。
気をつかわせまいと、謝ることもしなかった。
本当に、あの時の事は無かったかのように接してくれた。
ただ、あの日以来、麻香麻がアサガオの絵を描く事は無くなった。
ガチャリと部屋のドアが開いて眞(ま)由美(ゆみ)が入室してきたのは、歩人が右手を自分の額に当てた時だった。
「あれ、もう起きてたんだ」
「ついさっきな」
上体を起こして、歩人がベッドが出ると眞由美は、
「悪いけど麻香麻ちゃん起こしてきてくれない? お姉ちゃんお鍋見なきゃいけないから」
と言い残して退室した。
いつもなら何の抵抗も無いのだが、今見たばかりの夢のせいで足がやや重く感じられた。
「入るぞ、麻姉」
寝ているのだろうが、一応のところはノックと呼びかけをしてからドアノブを回す。
「…………」
相変らずの部屋模様に、歩人はしばし呆れて足を止めた。
はっきり言えば女の子らしくない。
なぜか三台もある据え置きパソコンとそれとは別にノートパソコンがもう一台。
プリンタとスキャナが一緒になった複合機にペンタブ、マイク、その他使用目的のわからない周辺機器の数々とパソコンを置いてあるテーブルに散らばるディスク類。
それはパソコンのソフトであったり、テレビゲームのディスクであったり……⑱禁ゲームの……本来ならば男の歩人が持っているべきディスクもちらほらと混ざっている。
無論、桜と部屋を共有している歩人の部屋にいかがわしい本やディスクは一切存在しない。
というよりも、日常的に存在がR指定の姉(蓮華)に⑱禁スレスレの事をされている歩人が本やディスクに頼る必要は無いというのが事実だったりもする。
本人が望まなくとも、グラビアアイドル並の女性の体を見たり触ったりするのは日常的な事なのだ。
視線をズラすと、今度は壁を埋め尽くさんばかりの本棚。
同人誌を含めた漫画が七割、後は雑誌とゲームの攻略本とパソコンや美術の技術書が一割ずつといったところだ。
本棚以外にも、机や床、テレビやコンポの上にまとまりのない本やプリントが山積み状態で、中には明らかに積み過ぎて崩れている山もある。
さらに部屋の中央へと視線を向けるとキャンバスを立て掛けたイーゼルが我が物顔で部屋の真ん中を陣取っている。
その下には姉と画材が散乱している。
散乱という表現でしっくりくるソレはどう見ても南城家三女、麻香麻である。
歩人より二センチだけ低い一六三センチという身長と腰まで伸びた一応はサラサラの髪を持ち、顔もなずなの娘で蓮華(れんげ)と眞(ま)由美(ゆみ)の妹だけありかなりの美人でメガネが良く似合っているのだが……
やや大きめのぶかっとしてオレンジ色のつなぎを着て、頬には青い油絵の具をつけたまま、南城麻香麻は床にだらしなくゴロ寝している。
一八歳にもなってこの色気の無い光景はなんたる事かと歩人が嘆息を漏らす。
同時に仰向けだった麻香麻がコロンと寝返りをうち、横向きになった。
それに合わせて、今まで重力で潰れていた麻香麻の程よく大きな胸があるべき形を取り戻して、半開きの前部から覗く白いシャツを押し上げる。
「ッッ!」
(前言撤回、格好がアレなだけで十分色気が……いや、つなぎ姿はつなぎ姿で他の女子や姉さん達には無い新鮮さが、つなぎ萌えってありなのか? てか俺は今何かいけない方向に目覚めてないか?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます