≪護≫2

 隼人さまが、落ちこんでる。

 そのせいだろうか。家の空気が重い。

 今月は、パーティーが三回もあった。

 貴重な休日を、不毛なパーティーについやさないといけないのが、本当につらいみたいだった。かわいそうだった。


 居間で、猫みたいにごろごろしている。この場合の猫は、あの、人間の方の猫じゃなくて、本物の動物の方の猫……って、ややこしいな!

 人間の方の猫と、本物の動物の方の猫も、似てるしな!


「大丈夫ですか?」

「うん」

「元気ないですよ」

「分かってる」

「楽しんだら、いいじゃないですか。きれいな女性が、いっぱい……」

「彼女たちが求めてるのは、本当の俺じゃないよ」

「……まあ、そうでしょうけど」

「否定してほしかった。そこは」

「意外と、めんどくさい人ですよね」

「……」

「短い髪も、似合ってますよ。イケメン度が、上がってます」

「いいよ。もう。なぐさめなくて……」

 逆効果だった。


 プラモデル作りにつきあってあげた。あからさまに、機嫌がよくなった。

 あんがい、単純なところがある。


「そのパーツ、なくさないで」

「なくさないですよ!」

「ごめん。大事なやつだから。サーベルがなくなったら、価値が半減するとは言わないけど、八割くらいに減る気がする」

「はいはい。わかりました。このへんに、ぶっさしときますから」

「もっと、ていねいに扱って」

「はい……」

 めんどくさいな、と思った。


「パーティーのことなんですけど。一度、断ってみませんか?」

「えぇ? いいのかな……」

「いいですよ。だって、西園寺家の跡とりなんですよね。逆に、聞きたいんですけど。

 誰から、抗議がくるんですか?」

 僕の質問は、なにかの核心をついてしまったらしい。隼人さまの顔が、こわばっていくのが見えた。

「そうだよな。自由になろうとしてるくせに、あの家に縛られようとしてるのは、俺なのかもしれないな」

 しんこくそうな口ぶりだった。

 もっと深く話を聞いてみたかったけど、隼人さまは「もう、寝る。おやすみ」と言って、さっさと居間から出ていってしまった。


「なんだよ……」


 なんだかくやしかったので、プラモデル作りは、一時間くらい続けてやった。

 わりと楽しかった。

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