4.貧乏性の御曹司、パーティーに行く

≪隼人≫1

 先月の初旬に、執事長から、今月の予定がメールで送られてきていた。

 その時から、今月に気が重いイベントがあるのは分かっていた。


 明日出席するパーティーのために、髪を切ることにした。

 本当は、切りたくなかった。

 切らなくても、今の俺に文句を言ってくるような人は、いないのかもしれない。

 だけど、これまでに必死で積み上げてきた「西園寺隼人」のイメージを壊す勇気は、俺にはなかった。


 美容院で、髪を切った。

 あの家を出る前に、よく使っていた美容院だ。支払いは、親任せにした。このお金は、どうしても払いたくなかった。

 切ってから、落ちこんでしまった。もう少し、伸ばしたままでいたかった。

 俺の勤め先の会社は、自由な社風で、男性の長髪も禁止されてはいない。それだけで会社を選んだわけじゃないけど、理由のひとつだったのは、確かだった。



 家に帰った。

 護が、俺を見上げて、ぽかーんとした顔をした。

「……なに?」

「かっこいいです」

「ありがとう」

 別に、嬉しくはなかった。

「ずいぶん、短くされたんですね。どうしてですか?」

「明日、パーティーに行くから。護も、一緒に来て」

「えっ」

「政治家の人も来るよ。あと、芸能人とか」

「行きます!」

 意外とミーハーなんだなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る