≪護≫7

 土曜日になった。

 先週の日曜日に、ここに来た。

 つまり、僕がここに来てから、一週間が経ったことになる。


 朝ごはんを食べさせてもらって、水の出しすぎに気をつけながら、お皿を洗ってると、隼人さまから「護」と呼ばれた。

「はい」

「今日は、友達が来るから」

「あ、はい」


 それから、一時間もしないうちに、呼び鈴が鳴った。ジーッと鳴ってる。

 ずっと鳴ってる。押しすぎじゃないのか?

 廊下に出て、玄関に向かおうとした。

 僕よりも先に、隼人さまが土間に下りてしまった。


「おじゃましまーす」

 僕よりも背の低そうな、若い男の人が、玄関の引き戸を開けて、入ってきた。

「ミャー」

 ん?と思った。

 隼人さまが、猫みたいに鳴いた。

「どーもー」

「いらっしゃい」

「……いらっしゃいませ」

 言ってから、お店の店員さんみたいだなと思った。

「きちゃったよ。

 執事くん? もう、いるんだ」

「田村護くん。こちらは、俺の友人の三宅くん」

「どーもー。ミャーです」

 ミャー? ミャーって、言ってる?

 どうも、そうらしい。

「ミャーさん、ですか」

「三宅でもいいよ」

 目を細めて笑った。猫みたいなやつだなと思った。

「じゃあ、三宅さん。執事見習いの田村です。よろしくお願いします」

「よろしくねー」

 靴を脱ぐと、三宅さんが上がってきた。

 廊下を歩いていって、居間に入ってしまう。慣れた足どりだった。

 僕も、居間に向かった。

 三宅さんが、せおっていたリュックを下ろす。畳の上に、ちょこんと座った。

 おもむろに、ごろんと横になった。

 そのうちに、もっと寝ころんで、ごろごろしはじめた。

 やっぱり、猫みたいなやつだ。

 こいつのことは、心の中で「猫」と呼ぶことにしよう……。


 また、呼び鈴が鳴った。今度は、ジ、ジ、ジと、短く、三回だけ。

「あ。飯田ちゃんかな」

 もう一人、きた。

 僕が廊下に出る前に、隼人さまが向かっていってしまった。


「どうも。飯田です」

 飯田さんは、大きめの、ださい眼鏡をかけていた。

 こいつは「メガネ」でいいや。

「田村護くん。こちらは、飯田くん」

 また紹介された。

「執事見習いの田村です。よろしくお願いします」

「どうも」

 メガネは、大きい口を開けて、にこっと笑った。悪い人じゃなさそうだった。


「座って。田村くんも」

 隼人さまが、メガネと僕に言った。猫を囲むように、全員、畳の上に座った。

「まだ座布団がなくて、ごめん」

「いいよ。そんなの」

「飯田。引っ越しの日は、ありがとうな。トラックまで、出してくれて」

「気にしないで。姉ちゃんたちが、また隼人に会いたいって」

「そうなの?」

「うん。うちにも、来なよ。落ちついたら」

「分かった。ありがとう。

 ミャーも、ありがとうな」

「いいってことよ」

「それ、いつも言うよな。ミャー」

「気に入ってるんだろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る