3.DIYでリフォームした家が、友人たちのたまり場に

≪護≫1

「いいかげんにしろっ」

 二階から、大声が聞こえた。大変だ。

 隼人さまが、どなってる。

 相手は、梶本さんだと思う。

 六月の二週目くらいから、急に、いろんな人が遊びにくるようになった。

 平日の夜とか、土日に。

 梶本さんは、そのうちの一人だった。よれよれの、謎の汚れがついた白衣を着て現れたので、僕の心の中では「博士」と呼んでいる。

 続きが聞きたくなって、廊下を急いだ。

 まっすぐな階段をのぼる。急な角度にも、もう、すっかり慣れてしまった。


「うちで、実験してんじゃねーよ!」

「えー。いいじゃんか。こんなに部屋があるのに」

「うちの部屋数は、お前のために多くしたわけじゃない。たまたま、多かっただけだ」

「一年後に、開封したいんだよ。興味ない?

 アクドナルトのハンバーガーセットが、一年経ったら、どうなるのかって」

「興味ないっ。虫が湧くから、今すぐ撤去しろっ」

 きゃんきゃん、どなっていた。子供みたいだった。


 その後で、博士が、隼人さまに、玄関から追いだされる現場を見てしまった。

 お互い半笑いだったから、プロレスだったとは思う。へんな状況だった。笑っていいものか、迷った。

「実験は、やめた。次は、遊べるもんを持ってきてやるよ」

「ジェンガとかは、やめろ。めんどくさいから」

「はいはい」

 最後まで、ふざけてる感じだった。「じゃあな!」と声を上げて、博士は去っていった。


 隼人さまが、ため息をつきながら、居間まで歩いていく。僕もついていった。

 畳の上に、どさっと音がするくらいの勢いで座った。


「めちゃくちゃ、怒ってましたね」

「あたりまえだろ。君だって、梶本に怒っていい。ここは、君の家でもあるんだから」

「はあ……」

 くすぐったいような気持ちになった。そうか。ここは、僕の家だったのか。

 思いえがいていた生活とは、だいぶ、かなり、ちがってはいたけど。大きすぎる屋敷の中で、ひっそりと暮らすよりも、こっちの方が、ずっと気楽かもしれなかった。

「へんなご友人が、多くないですか」

「言うな。分かってる」

「はあ……。

 梶本さんは、大学のご友人ですか?」

「うん。白衣を着てたけど、別に研究者とかじゃない。あれは、コスプレ」

「コスプレ?」

「けっこう、有名なんだよ。コスプレイヤーとして」

「そ、そうなんですか」

 まったく、いらない情報だった。

「大学って、どうでしたか?」

「楽しかったよ。もう一度やれって言われても、構わないくらいには」

「えー。そうなんですね……」

「学部とか、ゼミとか……なんていうんだろうな。多様性があって。面白かった。

 他の学部の人たちと交流するのも、楽しかった」

「そうですか。……僕、ちょっと、台所の片づけをします」

 自分から聞いたくせに、つらくなって、どうするんだと思った。

 大学のことなんて、聞いてもしょうがない。

 僕には、関係のない話だった。

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