≪隼人≫1

 ミャーが、しょっちゅう泊まりにくる。

 べつに泊まってもいいんだけど、べたべたしてくるのがうざい。

 ミャーは、早く、彼女を作るべきだと思う。むしろ、結婚まで行ってほしい。


「これから、暑くなるだろ」

「うん?」

「べたべたされると、もっと暑くなるから」

「わかった。ほどほどにするよ」

 そういうことじゃない。でも、もういいかと思った。

 俺が庭で自転車を磨いてる横で、ミャーはバーベキューの時に使うような、小さな簡易椅子に座っていた。

 目をつぶって、そよ風に顔を向けていた。ミャーの顔に、猫のひげはなかったけど、顔つきは猫っぽかった。

「その椅子、どうしたの」

「買ってきた」

「わざわざ?」

「うん。畑は? どんな感じ?」

「見たまんま。まだまだ、これから」

 土は入れて、種を撒いたり、苗を植えたりしたけど。収穫できたのは、ニラくらいだった。

「ニラがとれた」

「おめでとー」

「うん。野菜も、花も、もっと増やしたいけど。少しずつで、いいかなって」

「いいと思うよ」

「こんなに楽しいって、思ってなかった」

「なにが? 畑が?」

「違う。この家での、生活のこと。

 もっと、苦労するかと思ってた。自炊とか、家事とか」

「するわけないじゃん。こういう時のために、がんばって練習してたんだから」 

「そうなんだけど。今は、なにもかもに感謝したい気分だよ。

 幸せだなって、思ってる」

「そっか。よかったねー」

「うん」


 ミャーは、体が小さい。体のことで、生まれつきのハンディキャップを抱えてもいる。

 でも、明るかった。それは、初めてミャーに会った日から、たぶん、そうだった。

「うちに、来てもらってばっかりだろ。どっか、行きたいところとか、ないの」

「んー? とくに、ない。あ、あった」

「うん?」

「遊園地」

 ずっこけそうになった。

「それは、彼女と行けよ。彼女になってくれる人を、探して」

「うーん。やっぱり、そうだよね。

 僕、背が小さいから。僕より背が高い人は、僕じゃ、いやかなって」

「そう思う人ばかりじゃないよ。きっと」

「そうかな……」

「うん」

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