≪隼人≫2

 飯田が、彼女をつれてきた。

 外国の人だった。オーストラリアから、日本の大学に留学しにきているらしい。

 赤茶色の髪と、茶色い目が印象的だった。

 名前は、キャサリンさん。


「にほんかおく、すてきですねー」

 ほめてくれた。全部の言葉が、ひらがなで聞こえる。

「はやとさんの、おうちですか? ちんたい?」

「俺のです。買いました」

「おー。すばらしいです」


 プラモ部屋を見せたら、テンションが上がった。元のアニメを知ってるらしい。

「そちらでも、放映されてました?」

「です、ですー」

 どのキャラクターが好きかという話になった。飯田と三人で、すごく盛り上がった。


 護は、自分の部屋にこもって、出てこようとしなかった。

 最近、護の機嫌が悪い。理由は、なんとなく分かっていた。

 人の出入りが多いからだと思う。とくに、ミャーが泊まったりすると、あからさまに態度が悪い。

 どちらかというと、内向的な子なんだろう。そのことは、分かっていた。


「護くん、大丈夫?」

 飯田も気づいていたみたいだった。

 キャサリンさんと一緒に庭を見にいった時に、声をかけられた。

「うーん……。こんなに、人が来るとは、思ってなくて」

「ミャーのせいだろ」

「まあ、そうだな」

「まったく……。かわいそうだよ。俺も、来ちゃってるけど」

「飯田のことは、苦手じゃないと思う。ミャーとか、あとは……。知らない人に対する態度が、あからさまに塩対応なんだよな」

「繊細なんだろ。俺は、嫌いじゃない。賢そうだし」

「うん。頭は、悪くないと思う」

「大学、行かないのかな?」

「行けなかったんだと思う。家の事情で……」

「そうか。かわいそうだな」

「うん……」


 午後二時くらいに、飯田とキャサリンさんが帰っていった。

 フォローしようと思って、護の部屋に行った。


「護。いる?」

「……いますよ」

 襖が、するするっと開いた。

「ごめん。客が多いよな。うちは」

「多すぎですよ」

 しょんぼりしていた。

「悪かったよ。回転寿司でも、行く?

 ちょっと、遠いけど」

「行きます」

 こういうところは、遠慮しないんだよなと思った。


「自転車、ほしい?」

「え? べつに……。昼間は、借りてますよ」

「それは、いいんだけど。こういう時に、二人で自転車に乗れたら、と思って」

「あー。あったら、うれしいですけど。今は、仕送りが優先なんで、いいです」

「そうか」

「仕送りのお金を、銀行の口座に振りこんだんですよ。そしたら、母さんが、泣きながら電話してきて……。

 就職してよかったって、思いました」

「それは、よかった」

 まだ、あどけない顔をしてるけど。護は護で、戦ってるんだよなあと感じた。

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