令和モラトリアム★ボーイ -貧乏性の御曹司は、DIYでリフォームした家で年下執事と暮らしながら、本当の自分を探す-

福守りん

1.貧乏性の御曹司、家出する

≪護≫1

 はずれだ。

 はずれの、ご主人さまだ。

 それが、西園寺さいおんじ隼人はやとさまの印象だった。


* * *


 春が、来てしまった。

 2022年の、春。

 十八才の田村まもる青年――まだ、少年でいいのか?――は、自分の部屋で、荷作りをしていた。

 色あせた畳の上は、スーパーの裏口からもらってきた、段ボールだらけだ。


 大学には行けそうになかったので、高校を出てすぐに、就職することにした。うちが貧乏なので、しかたがなかった。

 僕の下には、妹が三人もいる。

 団地での貧乏ぐらしには、あきあきしていた。

 お金持ちの家で、働きたい。不純な動機だった。

 住みこみがよかった。とにかく、団地はいやだった。

 募集は、ハローワークで見た。

 今どき、執事なんていう仕事があることにびっくりした。正式には、執事見習い、だそうだ。

 半信半疑で応募してみたら、通ってしまった。まだ、高校に通ってる時に。

 「卒業したら、お荷物をまとめて、いらしてくださいね」と、年配のメイド長さんから言われた。冗談とかじゃなくて、本気の目だった。

 やばい。執事になってしまった。


「護ちゃん。いっぱい、お金かせいできてね」

「きてねー」

「ねー」

 三人の妹が、僕に、まとわりついてくる。

「うざい。邪魔」

「ひどーい」

「仕事の準備をしてるんだよ。着がえを、持っていくな。まいちゃん」

「ふへへ」

「悪い顔してるなー。ゆきちゃん。取ってきて」

「はーい」

 二番目の妹が、三番目の二才児から、僕の服を奪って戻ってきた。

「うっ……。うえーん」

「泣いたよ」

 一番目の妹は、紗恵さえという。

 中学二年生、五才。二才。紗恵、有希、麻衣の三姉妹が、僕の下にいる。

 母さんはパートで働いてる。父さんは、持病の糖尿病が悪化して、入院中。

 お金は、いくらあっても足りないわけだ。

「なぐさめといて」

「はいはい」


 紗恵がなだめたら、麻衣はわりとすぐに泣きやんだ。よかった。

 麻衣と有希が、二人で遊び始めたのを見て、紗恵が僕の前に戻ってきた。

「手伝おっか?」

「いいよ。ほとんど終わってる」

 服を畳んで、ボストンバッグに詰めこんだ。制服があるのかどうかは、聞いていなかったので、いちおう、まともそうに見える服を五日分と、パジャマや下着を用意していた。


「しつじって、秋葉原にある、しつじきっさと関係ある?」

「ない」

「なーんだ」

「ガチの、本物のお金持ちの家に住むんだよ」

「いいなあー。ごはん、おいしそう」

「どうかな。案外、まずかったりして」

「そうなの?」

「わかんない。行ってみないと……」

「電話してね。護ちゃんがいなくなったら、さびしくなるよ」

「そうかあ? 僕の部屋。三人で使うって、言ってなかった?」

「ふふふ。言ってた」

「よかったな。紗恵たちの部屋は、狭かったから」

「まいはお母さんと寝てるから、そうでもなかったよ。ゆきちゃんが、あたしの布団に入ってくるのだけは、こまっちゃうけど」

「そっか」

「お休みの日には、帰ってくる?」

「うん。そのつもり」

「がんばってね」

「……がんばる」

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