≪護≫4

 この人は、もってる。


 ジェンガを盛大に倒した隼人さまを見ながら、そう、しみじみと思った。

 お客さんたちに、あんなにおいしい鍋をふるまったのに。罰ゲームで初恋の話をさせられる家主か。

 かわいそー、と思った。言わなかったけど。

 ジェンガがくずれた山には、誰も手をつけなかった。まさか、2ゲーム目があるんじゃないだろうな……。


「あんまり、たいした話じゃないよ」

 そう前置きして、隼人さまが話しはじめた。

「まず前提として、これは、俺が施設にいた時の話です」

「しせつ?」

 キャサリンさんが問いかけた。

「保護者がいないとか、事情があって、保護者と離された子供たちが生活するところです」

「おー……」

 両手を口に当てている。メガネは、彼女には、隼人さまの話はあまりしていないらしい。

「ひとつ上の女の子がいました。祐奈ゆうなちゃんっていう。

 ものすごく、きれいな子で……。今でも、夢に出てくるくらい、はっきりと顔を覚えてます。

 やさしくて、かわいい。理想の女の子でした」

「まじで? そんな子、いんの? 紹介して!」

 猫が、ばかなことを言いはじめた。

「無理。俺も、ずっと会えてないし。

 一緒にいたのは、二年ちょっと……かな。俺が西園寺家に養子にもらわれることになって、それで、お別れ」

「そうだったんですか?!」

 叫んだのは、塚原さんだった。

「誰が、どこまでの情報を持ってるのかが分かって、面白いな」

 メガネが感心したように言った。

「えっ? 隼人せんぱいって、そんな感じだったんですか……。

 施設のことは、ちらっと、聞いたことあったけど。大学に入るまで、施設にいらしたんだと思ってました」

「小学四年生の時に、養子になったんだよ。そこから中学生までは、ちょっと荒れてた」

「そうだったんですね……。

 ごめんなさい。アニオタの好青年としか、思ってなかったです」

「べつに、そのままの印象でいいけど」

 隼人さまは、複雑そうな顔をしていた。

「名字が石田から西園寺に変わってからは、施設に行くのは禁止されてたから。

 祐奈ちゃんが、今どうしてるのかとかは、俺には分からない」

「せつないですね」

 キャサリンさんが、同情したように言った。

 僕は、思わず息を吸っていた。

「そこ、行かなきゃだめですよ! 施設で育った人の連絡先くらい、施設側が持ってるに決まってるじゃないですか!

 調べて、会いに行きましょう!」

 大声で訴えた。

「うーん……。行きたいけど。一人じゃ、こわいから。護も来て」

「行きますよ。ほんっと、かんじんなところで、びびりですよね。

 あっちの家の方々に対しても、そうですよ」

「それは、今は関係ないだろ」

「オーケー! 面白い話だったな!」

 博士が……いや、今日はダンサーが、カットインしてきた。

「じゃあ、次のゲームを始めようか!」

「次、あるんだ? また、ジェンガ?」

「おう。あと二回は、やるつもりだ」

「いいけどさ。じゃあ、組まないと」

 猫は、乗り気だった。

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