≪隼人≫3

 梶本と篠崎の分の鍋を皿に入れて、居間に持っていった。

 ついでに、おかわりについて聞いたら、なんと、キャサリンさん以外は、全員おかわり希望だった。嬉しかった。


 全員の食事が終わったところで、ジェンガをすることになった。

「……これ、何箱あるの」

「三箱」

「待て、待て。積みきれないと思う。あと、危なくないか?」

「畳だから、大丈夫だろ」

「シリウス様じゃなくなってるし。キャラ崩壊してるよ」

「あっ」

 篠崎のつっこみが、梶本にクリティカルヒットした。


「積んだなー」

 三箱分のジェンガが積まれた。

「すでに、ぐらぐらしてるんだけど」

「よし。じゃんけんで、誰から抜くか決めよう」

「梶本からでいいよ」

「いいのか!」

「いいよ」

「これって、下から抜いて、上に置くんですよね」

「一番上からじゃなければ、どこから抜いてもいいよ」

 護の質問には、飯田が答えた。

「倒した人が負け、ですか?」

「そうだね」

「罰ゲームとか、あるんですか?」

 今度は俺に聞いてきた。

「ない……と思う。そういうゲームじゃない。

 いつ崩れるかを、みんなで楽しむっていう……」

「いや、待て。それでは、つまらんだろう。

 そうだな。このジェンガの塔を崩した者には、その者の初恋について、語ってもらうとしよう!」

「うげー」

 ミャーがいやそうな声を上げた。

「めんどくさいな。誰? こいつ、呼んだの」

「そもそも、梶本に俺の家のことを話したのは、ミャーだろ」

「そうだった」


 梶本から、飯田、キャサリンさん、塚原さん、護、ミャー、篠崎、俺の順で、ジェンガの板を抜いていくことになった。

 四巡目までは、そこまで大変でもなかった。

 五巡目からは、明らかに土台がぐらつき始めていた。

「下から、抜きすぎなんだよ」

 飯田がぼやいた。ぼやいたわりには、さっと抜いて、上に置いてしまった。

 このあたりから、嫌な予感がしていた。護とミャーは、性格が似ているのか、かなり大胆に、きわどいところを攻めてくる。

 篠崎が倒さなかったら、俺が倒しそうだな、と思った。


「隼人さまの初恋話、聞きたいですけどね」

 ぼそっと言うのは、やめろ!

 無視しようとはした。なるべく上の方で、真ん中を抜けるところ……って、ねーじゃねーか!

 しょうがないので、手前にある板を抜こうとした。

 抜ききる前に、ずさーっと崩れ落ちた。

 ものすごい音だった。うるさかった。


「はい。隼人の負けー」

 ミャーが、笑顔で言ってきた。

「わかってる。いちいち、言わなくても」

「残念でしたね」

 塚原さんになぐさめられた。本当に落ちこみそうになるから、やめてほしい……。

「形あるものは、必ず壊れ、崩れさる! 覚えておけ!」

 梶本は、まだシリウス様をあきらめていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る