≪護≫1

 五月四日。みどりの日。

 本棚作りがはじまった。

 メガネが、トラックで木材を運んできた。もうカットしてあって、組み立てればいいという状態になっていた。


「すごいですね」

「かんたんな作りのやつだけどね。家具専門の職人さんには、とうていかなわない」

「はあ……」

「組み立て、やってみる?」

「いいんですか?」

「うん」

「じゃあ、あの……。釘、打ってもいいですか」

「いいよ。まず、軍手をつけようか」

「はい」


 釘打ち機を、メガネが貸してくれた。

「気をつけて」

「はい」

 打ちこむ時の、反動がすごい。音もでかい。

「曲がった、かも」

「大丈夫」


 本棚ができた。嘘みたいだ。

 あんがい、うまくできた……気がする。

 ふつうに楽しかった。

 隼人さまは、猫と二人で、わーわー言いながら棚を作っていた。

 楽しそうだった。


 ちょっと疲れてしまって、昼ごはんを作りはじめるのが遅れた。

 台所に行くと、隼人さまが料理をしていた。

「なんですか?」

「シチュー」

「いい匂いがします」

「うん。パンがない。パン屋で、買ってきてくれる?」

「わかりました」


 バターロールを一袋買って、家に戻った。

「ありがとう」

「いえ」

「立派な本棚ができたな。手伝ってくれて、ありがとう」

「そんな。仕事ですから」

 言ってから、なにか間違ったような気がした。

「楽しかったです」

 こっちが正解だな。

 隼人さまは、ちょっと不思議そうな顔をしてから、にっこり笑った。

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