≪護≫2

 西園寺家は、でかかった。その一言につきる。

 面接の時は、裏門から入ったから、よくわかってなかった。

 別館の受付みたいなところに行って、執事長にあいさつしてから、荷物をそこに置いて、そのまま屋敷の中を案内された。

 広い、という言葉以外に、言葉が見あたらなかった。

「すごく、広いですね」

「そうですね」

 おじさんの執事長は、にこりともしなかった。僕の父さんよりは、年上に見えた。まだ四十代かな……。それとも、五十ちょうどくらいだろうか。

 廊下が、めちゃくちゃ広い。それに、長い。廊下に住めそうなくらいだった。

 高そうな、ベージュと茶色がまざってるじゅうたんが、どこの部屋にも敷きつめられている。掃除が大変だろうなと思った。

 大広間で、シャンデリアというものを、生まれてはじめて、まじまじと見た。これは、水晶なんだろうか。飾りの部分が、きらきらと光っていた。


 仕事の話は、ほとんどされなかった。見学にきた観光客みたいな気分になりかけたところで、べつの、僕よりいくつか年上に見える男の人が、執事長と交代した。


「執事見習いの草野です。よろしく」

「田村です」

「仕事の説明って、いってもなあー」

 草野は、困ったような顔をしていた。

「あの。僕は、具体的に、なにをすればいいんでしょうか?」

「それなんだけどね、たぶん、今日だけ……」

「今日だけ?」

「いや。なんでもない。

 田村くんが泊まる部屋に、案内するから」


 執事見習いには、それぞれ個室があるらしい。

 僕の部屋だと言って見せられた個室は、団地にある僕の部屋を、三倍にしたくらいの広さがあった。うれしかった。

「すごい。広いですね」

「あんまり、喜ばない方がいいよ」

「え。なんで、ですか」

「それは……。今日の夜までには、わかるよ」

 草野は、同情するような目で、僕を見ている。さっぱり、わけがわからなかった。

「僕は、自分の仕事があるから。あまりうろうろしないで、この部屋にいてね」

「えっ……。僕も、手伝いますよ。仕事を、習わないと」

「いいから。ねっ?」

 なにが、「ねっ?」なんだ。

 草野は、逃げるように出ていった。

 なんだ? ブラック企業じゃなくて、ブラック屋敷か?

 就職、失敗したかな……。


 十二時になる頃に、草野が僕を迎えにきた。

 執事とメイドが食事をする部屋で、おいしい料理を食べさせてもらった。

 デザートまで食べたところで、面接の時にも会ったメイド長が、僕のところへやってきた。

 その場で、衝撃の事実を告げられた。

「あなたは、隼人さまのたってのご希望で、隼人さまの執事見習いとなりました。明日からは、隼人さまの私邸で、暮らしていただきますので」

 どうやら、僕は、この屋敷には住めないらしい。

 明日からは、会ったこともない、西園寺さいおんじ隼人はやとという人と、ここじゃない家で、二人で暮らす……らしい。

 くそが。どうりで、草野の仕事の説明も、てきとうなはずだ。理由がわかった。

 ガチで、同情されてたんだ。

 一体、どんな人なんだろうか。年は? すごいおじさんだったり、しないだろうな……。父さんよりも年上だったりしたら、泣いてしまうかもしれない。


「本日は、庭園で、定例パーティーの催しがございますので。

 隼人さまに、ご挨拶に参りましょう」

「は、はい」

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