≪隼人≫2

 執事見習いの子が、来た。名前は、田村護くん。

 心情としては、とうとう来てしまった……という感じだった。

 本当は、一人で暮らしたかった。

 自由になろうとしても、なりきれない。仕方がないことだと分かってはいても、悲しかった。


 昨日、初めて会った時には、普通の子に見えた。

 ほっとした。

 性格も、そこまで悪くはなさそうだった。裏表は、ありそうだったけど。


 昼食を用意して、二人で食べた。食べる時の様子も、普通に躾けられてる子という感じで、安心した。

 ゼラニウムの小さなポットを、三つも買ってきてくれていた。ちょっと、なごんだ。まだ給料はもらっていないだろうから、自分のお金を出して、買ってくれたんだろう。スコップも買ったらしい。

 護と二人で、ゼラニウムを土に植えた。

 何もなかった庭に、赤紫の花が、とうとつに咲いた。

 花なら、いくらでも見たことがある。あの家で。

 でも、違った。固い土をスコップでほぐして、自分たちで植えた花は、驚くほど美しく見えた。

 庭に畑を作るつもりはなかったけど、やってみてもいいかなと思った。そう思うくらいには、いい体験だった。


 これから、少しずつ家をリフォームしようと思っていた。

 それは、生活を便利にするために、そうしたいというよりは、自分の趣味とか、前々からやりたくてもできなかったことを、思う存分できるように……という思いからだった。

 二階の、三つある洋室のうち、二つを使うつもりだった。一つは書斎に、もう一つは、プラモデルを置くためだけの部屋にしようと思っている。

 本棚や飾り棚は、自分で作ろうと決めていた。家具屋で買った方が安いかもしれない。でも、作ってみたいと思っていた。

 日曜大工には、憧れがあった。あの家では、させてもらえそうになかったから。


 護は、リフォームを手伝ってくれるだろうか。あまり期待はしないでおこうと、自分に釘をさした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る