≪隼人≫1

 護の態度が変わった。変わりすぎて、こわい。

 やさしくなった。裏表の、裏の部分が、表に寄ってきた気がする。

 料理の腕前も、少しは上がった気がする。最初のレベルがひどすぎて、まだ、おいしいというレベルには達していないけど。


「料理はさ、俺がやるから……」

「なんでですか! これでも、努力してますよ!」

「分かるけど。人には、向き不向きってものが、あってだな」

 できれば、おいしいごはんが食べたい。自分で作れば、それなりの味になると分かっているから、なおさらだ。

「ごめん。作らないでほしい……」

「えっ。やっぱり、作らない方がいいんですか……」

 冷静になって、考えてみた。

 頑張ってくれているのは、分かっていた。ほぼ唯一の仕事を、俺が奪ってしまったら、護の立場がなくなる。

 でも、まずい。肉野菜炒めを作っただけで、成人男子三人を黙らせる腕前だった。

 一人で作らせるのは、こわすぎる。だったら……。

「一緒に作ろう。もう、それしかない」

「ああ! そうですね。そうしますか」

 納得してくれた。

 こういう素直なところは、嫌いじゃなかった。



 八百屋で買い物をするところから、一緒にやることにした。

 おじさんが、「おっ」と声を上げた。

「お兄ちゃんは、坊主のお兄ちゃんだったんか!」

 護は、「坊主」と呼ばれていたらしい。

「そうです」

 否定するのもどうかと思って、受け入れてしまった。護が「えっ?」と言うのが聞こえた。

 野菜の選び方を教えて、いくつか食材を買って帰った。


「なにを作るんですか?」

「シチュー。作り方を、覚えて。かんたんだから」

「いいですけど……」

「俺の好物が、これだから」

 護の目が大きくなって、背すじが伸びた。

 尊敬してくれるようになったのは、態度で分かっていた。でも、ちょっと、だるいというか……。

「普通にしててくれればいいから。これまでと、同じように」

「できないですよ! 僕、あなたに憧れてますから!」

「意外と、熱血な子だったんだなあ……」

「なんですか?」

「何でもない」

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