≪護≫3

 芝生が、一面に広がってる。

 芝生を囲むように、たくさんの花が咲いていた。たぶん、バラとか……。高そうな花ばかりに見えた。

 庭園って、こういうもののことを言うんだなと思った。


「あの方です」

 メイド長が、自慢げに言ってきた。

「若い男性の方、ですか」

「そうです」

 着かざった若い女性たちの、輪ができていた。その中心に、背の高い、すらっとした男性がいた。

 僕よりは年上そうだけど、すごく離れてるようには見えなかった。正直、ほっとした。

 遠目からでも、わかった。かなりのイケメンだった。


「ここで、お待ちください」

 メイド長が、さっと歩いていって、女性たちをかき分けるようにして、西園寺隼人さまをつれだしてきた。


 黒い髪は、ちょっと長めに見えた。前髪は、ぜんぶ上に上げていた。

 寝ぼけたような顔の僕とはちがって、目鼻だちがはっきりしている。大きな目をしていた。かっこいいなと思った。

 フォーマルスーツを、びしっと着ていた。

 隙がない。整いすぎていて、人間じゃないような感じがした。有希がよく遊んでる、バービー人形の、彼氏の人形みたいにも見えた。

 僕を見下ろして、にっこりと笑った。きれいな笑顔だった。

 完璧だった。完璧な、御曹司だった。


「田村護です。よろしくお願いいたします」

「西園寺隼人です。よろしく。

 松本さん。二人だけで話したいので、中座します」

「あら……。かしこまりました」

「僕は、このまま帰ります。お父さまとお母さまに、よろしく」

「はい。くれぐれも、お気をつけて」

 メイド長は、松本さんというのか。知らなかった。

「ついて来て」

 隼人さまが歩きだした。ゆったりした歩き方は、上品に見えた。


「君の部屋は、どこ?」

 別館の中に入ってから、聞かれた。僕の部屋に行くらしい。

「あ、こっちです」


 部屋の中に入ると、隼人さまが、中から鍵をかけた。

「椅子……は、ないのか」

 部屋を見回して、そう言った。

「ない、みたいです」

「ベッド、借りるよ」

 部屋に入ってから、急に、態度が変わったような気がした。

 顔つきがきびしい……というか。にこりともしない。

 いきなり、ベッドの上に座った。

 スーツの上を脱いで、ベッドに乗せると、大きなあくびをした。それから、両手を高く上げて、ぐーっと伸ばした。

「……どうしたんですか」

「寝不足なだけ。引っ越しの片づけの途中で、呼びだされて……。

 俺の家で働くっていう話は、誰かから聞いた?」

 「俺」? 今、「俺」って、言ったか?

 話し方も、ぶっきらぼうだった。そのへんの、若い兄ちゃんみたいな……。

 なんだ、こいつ。二重人格か?

 外面がいいだけで、僕みたいな使用人には、こんな態度になるのか。

 はずれだ。はずれの、ご主人さまだ。

 明日から、こいつと暮らさないといけないのか……。

 大変なことになりそうだな。

「大丈夫? すごい顔になってるけど」

「聞いてます。大丈夫です」

「そうか。俺は、自分の家に戻るから。

 明日、車で送ってもらって」

「はあ……。わかりました。

 これから、どうぞよろしくお願いします」

「うん。よろしくお願いします」

 片側の唇のはしが、少しだけ持ち上がった。どうやら、笑ったみたいだった。

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