≪護≫3

「子供の頃、西園寺家でいじめられてた話って、聞いたことありますか?」

「うん。あれでしょ? 理不尽なしつけのことでしょ」

「です」

「いらっとしなかった? 聞いた時」

「しましたよ。いらっと、どころじゃない。ぶちぎれてますよ」

「あれもなー。なんで、がまんしちゃったのかな……。

 早めに、ぶちまけてやれば、よかったのにな」

「そう思うんですか」

「もちろん。執事くんは? どう思ってんの?」

「たぶん、ミャーさんと同じですよ。

 あと、もう、護でいいです。僕は、ちゃんとした執事じゃないんで」

「あ、いいの?」

「いいです」

「護ちゃんは?」

「それは、いらないです。護で」

「おっけー」


 メガネは、彼女をつれてきた。

 キャサリンさんは、香水のにおいがきつい人というイメージしかなかったけど、今日はほとんどにおわなかった。メガネが説得したのかもしれない。

「お邪魔します」

「おじゃまいたします」

「どうぞ」

「隼人は?」

「白菜を買いに行きました」

 答えてから、これから来る人全員に、白菜のことを言わなきゃいけないのかと思って、げんなりした。べつに、言わなくてもいいんだろうけど。

「あ、忘れてた」

 猫が、もぞもぞと起き上がってきた。リュックから、なにか、大きめの薄い箱みたいなものを出して、渡してきた。

「おみやげ」

「すみません。わざわざ」

「俺は、ビールを持ってきたから。玄関に置いてある」

 またか、と思った。

「はたちになれば、飲めるから」

 メガネに笑われた。顔に出ていたらしい。

「ロボットのへや、いってもいいですか?」

 キャサリンさんに聞かれた。

「どうぞ。あ、でも、ロボにはさわらないでください」

「りょうかいでーす」

 キャサリンさんとメガネが、居間から出ていった。


 僕は玄関に行って、ビールの箱を回収した。1ダース入りが、二箱。

 二つ重ねて、台所をめざした。重い。足がよろけた。

 とりあえず、1ダース分を箱から出して、冷蔵庫にしまった。


 居間に戻ると、猫は眠りかけていた。

「ねちゃうんですか」

「うん……。なべがはじまったら、おこして」

「いいですけど」

 ひまになってしまった。

 今のうちに、座卓を拭いておくか。ふきんを取りに、台所に戻ることにした。


「ただいま」

 食器棚からお皿を出したりしていたら、隼人さまが帰ってきた。

「おかえり」

「誰か、来てるよな」

「わかってるんじゃないんですか」

「ミャーと飯田……と、キャサリンさん」

「合ってますよ」

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