概要
人食い鬼が出ると噂の山で、男は不思議な白装束の旅の坊主と出逢う。
道中、坊主の口から語られるのは、賽の河原で出逢った一人の子供と鬼の物語。
所詮此の世は生き地獄。
その目に泪を浮かべ、情けをかけた罪により地獄と云う名の浮世に落とされた地獄の鬼「首葛籠」と、彼に見逃されたひとりの鬼の仔「空也」。
時に慈しみ弱きを助け。
時に慈悲なく悪しきを葬る彼ら。
室町の世を渡り歩く彼が語るのは、平安末期の哀しき儚き世の移り変わりと……各地の伝承や妖語り。そして己の父を探し……葬り去るまでの物語。
葛籠になった鬼の真の罪と罰とは、少年の逝く末は……?
琵琶の音と共に此処に語るは、憐れ戯れ珍道中——。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!賽の河原から還りしは己を見つける旅路、べべんと琵琶の音お一つ
短編から始まった今作は多くの童謡、昔話、伝承を題材とした壮大なる令和の御伽噺。
顔半分を布で覆い隠し飄々とした足で室町の世を歩く白子の坊主、空也。彼の背には人の言葉を話す大きな葛籠がいつも共にいました。お二方は賽の河原より現世に迷いし子供と鬼、とある罰と因果に導かれるまま長き旅を続けています。
そんな旅先の中で彼らが出会う様々な物語、昔ノ噺、濡衣塚、舌刈り雀、白比丘尼、などなど。序盤から中盤にかけて続く一話完結型の残酷でそして哀愁漂う怪奇譚。
人も妖も関係なく見せる情欲と狂気と果てぬ愛のお話の連続はどれも素晴らしく胸を打ち続けます、驚くのは著者であるスキマ参魚さんの引き出しの多さです、ありと…続きを読む - ★★★ Excellent!!!鬼の仔と地獄の鬼が織りなす旅の行き着く先は
大変読み応えのある作品でした。主人公は鬼の血を引く白子の坊主とお供の葛籠。二人は全国各地の伝承を紡ぎながら旅を続けます。
まず何よりも驚かされるのが文体のセンス。まるで古典のような和文の言い回しや仮名遣いが作品にぐっと深みを与えています。それでいて古典のように堅苦しくなく、現代文と同じようにスルスル読めてしまうさじ加減が絶妙で、作者様の力量がうかがえます。
またこちらの作品は連作短編という形式で綴られており、伝承やお伽話をテーマにした短編が続きます。
そこにあるのは人間達の欲深さや執念、そして愛。他人を蔑ろにし、蹴落とすような輩に空也と葛籠は容赦をしません。怪異達に空也達が裁きを下すことも…続きを読む - ★★★ Excellent!!!死出の旅路の葛折り、怪奇幻想文学の新古典
あなたも賽の河原はご存知でしょう。冥土に至る途中にある河原。ここでは親に先立って死んでしまった子どもが父母供養のために小石を積んで塔をつくる。しかし、意地悪な鬼がそれを崩してしまうため、子どもは望みを果たすことができない。子どもを救いに導くのは、親兄弟による追善供養であるとか、菩薩であるとか言われますが、さて、本作の主人公においては少々事情が異なったようで……。
白子(アルビノ)の旅僧と首葛籠。室町の世を渡り歩く彼らが、平安末期の思い出話を歌にして歌う。それがこの物語の骨子であり、一般的には連作短編集といわれる形式です。しかし、歌うにも動機が必要。この作品を一貫する旅と出逢いというモチーフ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!地獄の沙汰は、鬼の涙と引き換えて。歴史を語り縁を結ぶ、風雅な御伽草子。
ジャンルはホラーですが、歴史や古典文学を愛する方にこそ刺さる作品だと思います。
主人公は鬼の血を引く白子(アルビノ)の青年。大きな葛籠を背負い、年季の入った琵琶を携え、簡素な白装束に金色の掛絡、目から頭に掛けては白い布を巻きつけた旅の僧に身をやつしています。彼が語るのは、各地に語り継がれる伝承のその、裏側。歴史の陰に葬られた数々の真相です。
壇ノ浦、濡衣塚、太宰府、かちかち山……日本人なら良く知る歴史物語や御伽噺が、彼の語りによって新たな意味を帯び、思わぬ背景が紐解かれてゆく。どの物語にも登場する、鬼の血をひく子供と葛籠の鬼。それこそが、語り部である空也の幼少時代なのでした。
賽の…続きを読む - ★★★ Excellent!!!白いひとりと、黒いひとつ。不思議なコンビのあやかし奇譚!
白い布で顔のほとんどを覆った怪しい白装束の旅僧。そしていつも彼と共にあるのは、異様な気配をまとった葛籠――。
風変わりなこのコンビが往くのは、平和とは程遠い時代の日本です。
青年はべべんっと琵琶を慣らしながら、道中出会った者に不思議なあやかしたちの物語を語り聴かせます。それは歴史に名高いあやかしたち、彼らにまつわる真実の物語。到底体験できるはずもないその昔話を、坊主はさも己の身に起こったかのように軽快に語るのです。
その語りの中で旅をするは、白い布で顔のほとんどを覆った白装束の“少年”――そして口うるさく小言を吐きながら彼に背負われる、子供には大きすぎる“葛籠”。
はてさて、その物語は…続きを読む - ★★★ Excellent!!!琵琶の音色と共に口承される、妖しく哀しい人の世の移ろい
「此度語りやすは、現世、浮世のモノガタリ。
此の世は地獄と云いやすが、其処に救いは在るのかどうか——。」
そんなお決まりの前口上で始まる、人や人ならざる者の情と業を綴った短編連作です。
語り手は白子の旅坊主・空也と、彼の背負った地獄の鬼・首葛籠。
独特の語り口と心地よいリズムが、読み手を妖しくも美しい世界へと誘います。
時を越え、土地を越え、少しずつ形を変えながら伝わっていく物語たちは、いったい何を映し出すのか。
誰もが知る昔噺や地域の伝承がアレンジされ、新たな解釈のストーリーとして見事に成立しています。
最初の謳い文句にある通り、これは「現世、浮世のモノガタリ」です。すなわち、人の世…続きを読む