鬼の仔と地獄の鬼が織りなす旅の行き着く先は

大変読み応えのある作品でした。主人公は鬼の血を引く白子の坊主とお供の葛籠。二人は全国各地の伝承を紡ぎながら旅を続けます。
まず何よりも驚かされるのが文体のセンス。まるで古典のような和文の言い回しや仮名遣いが作品にぐっと深みを与えています。それでいて古典のように堅苦しくなく、現代文と同じようにスルスル読めてしまうさじ加減が絶妙で、作者様の力量がうかがえます。

またこちらの作品は連作短編という形式で綴られており、伝承やお伽話をテーマにした短編が続きます。
そこにあるのは人間達の欲深さや執念、そして愛。他人を蔑ろにし、蹴落とすような輩に空也と葛籠は容赦をしません。怪異達に空也達が裁きを下すこともあれば、傷ついた魂に優しく寄り添う姿もあります。中には思わず涙してしまうほど愛に溢れたエピソードもあり、どの話も完成度が高いです。

物語全体には空也の生い立ちがテーマとなっており、物語が進むに連れて出生の秘密が明らかになってきます。
その残酷な事実に打ちのめされることもあれば、空也を愛する者達の存在に救われることもあり、ラストは涙なくしては読めません。

二人と一緒に泣いたり笑ったりしながら、終わらない旅路を一緒に追いかけて頂きたいと思います。

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