琵琶の音色と共に口承される、妖しく哀しい人の世の移ろい

「此度語りやすは、現世、浮世のモノガタリ。
 此の世は地獄と云いやすが、其処に救いは在るのかどうか——。」

そんなお決まりの前口上で始まる、人や人ならざる者の情と業を綴った短編連作です。
語り手は白子の旅坊主・空也と、彼の背負った地獄の鬼・首葛籠。
独特の語り口と心地よいリズムが、読み手を妖しくも美しい世界へと誘います。

時を越え、土地を越え、少しずつ形を変えながら伝わっていく物語たちは、いったい何を映し出すのか。
誰もが知る昔噺や地域の伝承がアレンジされ、新たな解釈のストーリーとして見事に成立しています。
最初の謳い文句にある通り、これは「現世、浮世のモノガタリ」です。すなわち、人の世。
現代にも通じるような人間の欲や愛憎に、ゾッとするやら腑に落ちるやら。どのエピソードも含蓄があり、読み応えたっぷりです。

空也と首葛籠の軽妙なやりとりも見どころの一つ。
次第に明かされていく彼ら自身の抱える哀しい事情にも、ぐっと惹き込まれます。
「其処に救いは在るのかどうか」
彼らの旅の行く先を見守りたいです。

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