幕間——恩人

 モノクロツートンカラーの立派なお屋敷——葬儀屋本社が淡い月明かりに照らされている。社長室以外の部屋は夜の闇に包まれていた。一息ついたデュランが両腕を天井に向かって伸ばしている。すると突然、作業机に設置している電話が鳴り響いた。

「……誰だこんな時間に。」

 デュランがぼやきながら受話器を手に取る。

「もしもし? デュラン・Lロード・クリフデンだ。……ルドベキア? 久しぶりだな! ……お前の活躍は新聞で見たぞ。凄いじゃないか! ……ああ。レオントの件は…、残念だが本当だ…。……来月? ……分かった、予定を開けておく。」

 通話が終わり、デュランはご機嫌な様子で受話器を置いた。すぐに手帳とペンを取り出して通話の内容をメモしている。一通り書き終えると、手帳を閉じて帰り支度を始めた。ふと、応接テーブルに置きっぱなしだった日記帳に気が付く。古びた日記帳を作業机の引き出しにしまうと、デュランは自分へ言い聞かせるように呟いた。

「レオント。お前はベルちゃんと過ごした五年間、自分の為にも全力で戦い続けたんだよな。それでも、道半ばで倒れてしまった。あの子がどんな結末を迎えるか、見届ける義務があるよな。俺が、お前の代わりに……。」


 トライアンフ湖に浮かび上がった月は、水面にゆらゆらと揺れていた。




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