幕間——天使
ベルが目を覚ました時、真っ先に二段ベッドの屋根が視界へと入ってきた。まだ思考がぼんやりしているせいか、全身が揺れているよな感覚に陥る。ベルはゆっくり深呼吸をすると、客船に乗ってメリア大陸へ向かっている事を思い出した。
「夢……か。」
静かに呟いた後、ベルがベッドから上体を起こす。すると、客船の個室に設置されている椅子へ腰かけていたコーネインが、心配そうにベルの元へと寄り添ってきた。コーネインがベルの背中をゆっくりとさすり始める。
「大丈夫? 気分はどう?」
「大分、楽になりました。」
コーネインは丸机に置いていた水筒とコップを手に取ると、コップに水を注いでベルへと手渡した。ベルがコップに口を付けて水を飲んでいる。少女が一息ついた時、コーネインの長いうさぎ耳は申し訳なさそうに垂れ下がっていた。
「ごめんね、船旅に付き合わせちゃって……。列車の旅は平気そうにしていたから、まさかこんなに船酔いするなんて思ってもいなかったわ……。」
「船に乗るのは初めてだったので。お手数をお掛けしました。」
ベルがぺこりと頭を下げる。コーネインは長いうさぎ耳をピンと直立させると、胸の前で両手に握りこぶしを作り気合を入れていた。
「アソルト王国に到着するまであと一週間はかかるけど、何とか頑張ってね! 着いたら実家でおもてなししてあげるから!」
「期待しておきます。」
ベルはベッドの縁に腰かけると、床に置いていた黒いレースアップブーツを履いて靴紐を結んだ。コーネインの手を取ってベッドから立ち上がり、身に着けている黒いドレスを整えている。ベルは櫛を使って膝下まで伸びる黒髪を梳くと、頭の低い位置でツインテールに結び直していた。
一通り身なりを整え直した後、ベルがコーネインに向かって声を掛ける。
「少し、外の空気を吸ってきます。」
「あ。もう少しで夕食の時間みたいだから、リラックスした後にいったん部屋に戻って来てね! 一緒にレストランまで行きましょ!」
「分かりました。」
手を振るコーネインに見送られながら、ベルは個室を出て展望デッキに向かった。白い壁の通路を通り抜け、吹き抜け添いの階段を上る。ベルが展望デッキにたどり着くと、辺りは夕焼けに包まれていた。赤い空に浮かぶ夕焼け雲がまるで翼のように広がっている。どこまでも広がる水平線の先には、朱い夕日が顔を覗かせていた。
「〝ありがとう〟……か。」
ベルはドレスグローブを外すと、自分の両掌を眺めた。掌は夕日に照らされて赤く染まっている。少女は赤く染まった両手を静かに握りしめていた。
Black Parade しうまい @si_umai
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