歴史小説というよりは偉人伝に近い本作品。
書かれていた点については、講評で十分取り上げられていると思いましたので、書いていない点について述べていきます。
皇帝制とそれに伴う貴族制には宗教的な背景が有ることは今更述べるような事でもないでしょう。しかし、本作においてはその"宗教"そのものが書かれていないのです。
これが読みやすさに繋がっているかと思います。宗教的背景を説明すれば、それこそ歴史小説となってしまいます。逆説的に、"宗教"を描かないことで主人公に焦点を絞らざる終えないのです。この分かりやすさがとても気持ちが良い。
そして、血生臭くない。世俗的な題材でありながらも、主人公の生き様は美しい。その美しさを十二分に表現出来ている筆力の高さには感嘆せずにはいられません。
また、革命についての描写が淡々とした筆致で書かれていることがこれに拍車を掛けます。世俗とはかけ離れた主人公と処刑人。歴史とは解離した個々の対話としての感傷、処刑人の孤独、そして主人公の神々しいまでの美しさが際立ちます。
読み終えてから、再び題名を眺めた時の感動を是非とも味わって頂きたい。
架空の歴史をしっかりとした実在感で描き出した一篇。その中でわずかに交差する、時代に翻弄された女性たち。
タグに注意書きがあるように、固有名詞ルビが多いのだけれど、そこが堂々としていて、本当にこういう国があったのではと錯覚させる細やかさ。この短編のために、どこまで設定を作り込んだのでしょう?
モデルとなったのはフランス革命あたりのようと思うのですが、革命が起こるまでの経緯、事態が収束するまでの流れがつまびらかに俯瞰して語られ、とことんまで「歴史小説」のていを崩さない。武道の達人は立ち姿からして違うと言いますが、隅々まで神経が行き届いた文章に惚れ惚れします。
精緻な細工物のように、磨き抜かれた美しさに満ちた作品でした。