第六話

 銃声と破壊音がコロシアムに鳴り響く。怪物の眼球から放たれる光線を巧みに回避しながら、シェムはアリーナを外周添いに駆け回っていた。攻撃の隙を突いて、アサルトライフルの弾丸を眼球に向かって打ち込む。

 

——パァン! パァン!


 肉団子を覆う眼球が次々と破裂する。怪物は少し身もだえしながらも、別の眼球からシェムに向かって次々と光線を放った。一発目は地面に命中し、赤褐色の砂を黒く焦がす。二発目は透明な壁に命中すると、壁が波紋の様に揺れながらエネルギーが分散していった。三発目がシェムの左上腕部を掠め取る。

「ぐっ!?」

 制服の上腕部が焼き切れ、二の腕が抉り取られた。二の腕からの出血が白い制服を徐々に赤く染めていく。シェムは再びアリーナを駆け回りながら、ポーチに用意していた包帯を二の腕に巻き付けた。空になったアサルトライフルのマガジンを交換しながら、自分に言い聞かせるように呟いている。

「目玉は撃っても、キリが無いわね……。」

 シェムは改めて今の状況と怪物の状態を確認し始めた。戦闘が始まって十五分ほど経っただろうか? アサルトライフルのマガジンは既に一つ使い切っている。怪物の表面を覆っている目玉の内、四分の一以上は潰した。それでもなお、怪物は血まみれの状態でアリーナの中央部に浮かび上がったままだ。地面へと滴り落ちている赤い血液が、血の涙の様にも見える。グロテスクな光景だが、白い光に照らされているその姿はどこか神々しくも見えた。

「マガジンのストックはもう無い。ライフルの弾は残り三十発。後はランチャーの弾が一発と、ハンドガンの弾が十発……か。」

 シェムはその場に立ち止まり息を吐くと、怪物を睨み付けた。

「一か八か……、やるしかないわね。」


 シェムが怪物の浮かんでいるアリーナ中央に向かって全力で走り出す。次々と放たれる光線を、制服が掠め取るほどギリギリのタイミングで避け続けた。一発の光線がシェムの左大腿部を貫いたが、それでも彼女は止まらない。シェムは怪物の真下付近に辿り着くと、スライディングをしながら怪物の片翼を狙ってアサルトライフルを構えた。

「浮かび続けるのも疲れたでしょう? 少し休憩しなさい!」

 翼の関節部分を狙って次々と弾丸が発射される。怪物の下を通り抜ける頃には、マガジンの中身が空っぽになっていた。白い制服が怪物の返り血で赤く染まっている。シェムは棒切れと化したアサルトライフルを遠くに投げ捨ると、アリーナの中央へと向き直った。

「——————!」

 怪物から何物にも形容しがたい絶叫が鳴り響く。風穴が空き折れ曲がった片翼から赤い血のシャワーが降り注ぐと、血まみれの肉塊が地面へと落下した。落下の衝撃で赤褐色の砂が舞い上がる。怪物が体勢を立て直そうと再び浮かび上がろうとした時、彼の目の前にロケットランチャーを構えたシェムがいた。

「これで……くたばりなさい!」

 シェムが至近距離でロケットランチャーを打ち出した。強烈な爆発音が鳴り響き、コロシアム全体が衝撃で揺れる。怪物の肉片と砂埃が盛大に飛び散ると、アリーナに血の雨が降り注いだ。シェムは反動で吹っ飛び地面に叩きつけられたが、何とか二本の足で立ち上がる。アリーナの中央部に目を向けると、砂埃を突き破るように天井へと伸びている片翼が地面へと伏した。

「……やったの?」

 舞い上がる砂埃の中、シェムは銀色の拳銃を取り出した。右手に拳銃を持ち、左足を引きずりながらアリーナの中央部へと向かう。飛び散った肉塊を踏みつぶしながら歩を進めていると、鉄の感触がする何かに躓いた。ふと気になり、シェムはその場に屈んでその物体を左手で取る。

「拳銃……?」

 小さな肉塊がへばりつき血まみれになっているが、見覚えのある拳銃だった。シェムは真っ赤に染まった制服で、拳銃に付着した血を拭いとる。真っ赤な血の奥から、鈍色の銃口が顔を覗かせた。

「どうしてコレがここに……?」

 アリーナを舞っていた砂埃が徐々に晴れると、体積が半分になっている怪物の姿が確認できた。だが、抉られた断面から少年の上半身が生えている。一瞬、シェムの思考が凍り付いた。シェムは恐る恐る怪物に近づくと、肉塊から生えている少年の姿を確認した。左腕にトンボのブレスレットが付いた緑髪の少年がうなだれている。

「……アルマ?」

 シェムの手のひらから、銀色の拳銃と鈍色の拳銃が零れ落ちた。




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