第七話

 葬儀屋『Black Parade』が設立されてから一年がたった。設立当時は俺に社長なんかが務まるのかどうかと、自分でも疑問を隠せなかった。だが、案外やってみれば何とでもなるものだ。レオントの誘いに乗って本当に良かった。あのまま軍隊に居続けていたら、俺はストレスで上官にライフルをぶっ放していただろう。何はともあれ、会社を軌道に乗せることができて本当に良かった。

 そんな時だ。朝、自宅のポストを覗くと、レオントから手紙が届いていた。封を開けて中身を読む。

 

——デュラン、葬儀屋の仕事は落ち着いたか?

——君に見せたいものがあるから、時間が空いた時にうちへと来て欲しい。

——美味しい紅茶を用意して、待っているよ。


 どうやら、また新しい骨董品を買ったらしい。士官学校時代にもよく家に呼び出されては、ご自慢のコレクションを見せつけられたものだ。レオントが親ののこした会社を継ぐために士官学校を中退してからは、披露会もご無沙汰になっていたが。まぁ、残り少ない余生だ。好きにするのが良いだろう。

 手紙を受け取った日の午後、俺はレオントの屋敷を訪れることにした。今日はたまたま休養日にしていたのだが、アイツはどこで嗅ぎ付けたのだろうか? まぁいい。レオントの容体も気になっていたところだ。俺は自動車に乗ると、トライアンフ郊外にあるレオントの屋敷へと向かった。


 緑に包まれた山間部を抜け、町外れの白い教会を横目にし、かれこれ一時間ほど経っただろうか? 森林の奥に白い屋敷が見えた。俺は屋敷の玄関先に車を止めると、玄関前にある呼び鈴を鳴らす。年配の淑女が姿を現した。

「あら。デュラン様ではありませんか。」

「どうも、プラムさん。元気そうで何よりです。レオントに呼ばれて来たんですが、いますか?」

「いらっしゃいますよ。呼んできますので、客間でお待ちください。」

 レオントの従者に客間まで案内されると、俺はソファへ腰かけレオントが来るのを待った。それにしても、相変わらずデカい家だ。こんな広い場所に家主と従者の二人しかいないのだから、プラムさんは毎日の掃除が大変だろうな……。そんなことを考えていると、レオントが部屋に入ってきた。

「デュラン、わざわざ足を運んでくれてありがとう。」

「なぁに。ここまでの道のりは良いドライブになるからな。ただそこまで感謝されるなら、燃料代ぐらいはお前に請求しとくか。」

 レオントは微笑みを浮かべると、テーブルを挟んで向かい側にあるソファへと腰かけた。

「君は相変わらず元気そうで安心したよ。ところで、葬儀屋の調子はどうだい?」

「もっと安心しろ。何とか軌道に乗せたぞ。イツ国にも支社が出来て、出張部門も近いうちに設立できそうだ。」

「そうか。」レオントが安堵のため息をつく。「ただ、イツ国はポラン三国の統一戦争に今すぐ介入してもおかしくない状況だからね。その辺りは十分に用心をしておいてくれ。」

「イツ国が戦争…か。……ルドベキアのヤツも巻き込まれるだろうな。」

「彼は強い男だから大丈夫だろう。」

 俺は深いため息を吐いた。軍隊を辞めて良かったという安心感と、戦争から逃げ出した自分への情けなさと、戦場へと向かう事になる友を心配する気持ちが入り混じっていた。少し冷静になると、俺はここに来た当初の目的を思い出す。

「で? 今日はどんな骨董品を見せてくれるんだ?」

「骨董品?」レオントが疑問の表情を浮かべる。

「は? お前が『見せたいものがある』とか言ってきた時は、レオント骨董品展の開催日だろろうが。」

 レオントが顎に手を当てて思案している。しばらくすると、ヤツはにやりと笑みを浮かべていた。

「……確かに。ある意味では〝骨董アンティーク〟なのかもしれないな。」

 レオントがそう呟くと、扉をノックする音が部屋に響いた。

——コン コン コン

「丁度良いタイミングだ。」

 レオントは今まで見たことがないほどの優しい微笑みを浮かべていた。




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