幕間——英雄
黄金に輝く満月を中心に、色鮮やかな星々が夜空を覆っている。葬儀屋本社に隣接している寄宿舎の一室からは薄明かりが漏れ出ていた。窓際に面する作業机の上で、小さな光を頼りにベルが日記をつけている。傍らには青紫色に咲く鉄の花が立てかけられていた。
「……人を救う為に銃を。」
日記の一文を書いている時にふと、ベルの筆が止まった。彼女の頭にルサティアでの出来事が映し出される。
——過去に犯した罪は消えません。
——今の私は、他人の犠牲の上でこの場所に立っているのです。
——一生、他人の血で汚れた両手を使って生きていくしかありません。
ベルは手に持っていた筆を机に置くと、その場に立ち上がった。ランプの灯りを消して静かに窓を開ける。ベルは月明かりに照らされているトライアンフ湖を眺めた。湖から吹き付ける肌寒い風が、彼女の黒髪と黒いネグリジェを揺らしている。
ベルは青紫色の装飾銃を手に取ると、月に狙いを定めるように目の前へと掲げた。すると、窓の外から入ってきた一匹の蠅が銃口に留まる。ベルは紅い瞳の蠅に語り掛けた。
「貴女も誰かの犠牲の上に、この場所にいるのですか?」
彼女からの返事はない。しばらくすると、蠅は黄金に輝く月明かりに向かって飛び立って行った。
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