第二話
ダオスタの駅で降車するなり、コーネインが少し興奮気味に周囲を見渡していた。
「辺鄙な場所にあるのに、ものすごく立派な駅ね! 天井の造りが、キリス国の首都圏にある駅と似ているのも驚きだわ!」
コーネインは首を上に傾けながら、天井に描かれた鉄骨のアートを眺めている。すると、駅のホームで掃き掃除をしていたおじいさんが微笑ましそうに話しかけてきた。
「そこのお嬢さん方! ダオスタに来るのは初めてかの?」
「はい! それにしても、駅構内の構造が素敵ですね! 思わず見とれてしまいました!」
コーネインはお辞儀をしながら元気よく答えた。ベルも軽くお辞儀をしながら静かにうなずく。すると、おじいさんは笑いながら駅の説明をし始めた。
「はっはっは! そうじゃろう、そうじゃろう! こんな立派な駅は作るのに金も時間もかかるからの! 大半は都市部の主要駅でしか見れん構造なんじゃ。これは〝トレイン・シェッド〟と呼ばれる建築方式なんじゃが……」
コーネインとおじいさんが話し込んでいる間、ベルは一人娘を連れた家族に耳と視線を向けていた。この家族は観光に来ていたようで、これから帰りの列車に乗り込もうとしているようだ。母親と娘が駅構内の売店でお土産を選んでいる姿が見える。
「うーん、こっちの赤い押し花のしおりもいいけど、花畑が描かれているポストカードもいいわね……。」
「えー? こっちの、きいろいおはなのほうがいいとおもうよ?」
「おーい! もうお土産は町でたくさん買ったじゃないか…。早くしないと帰りの列車に乗り遅れるぞ!」車内から父親が妻と娘を急かす声が聞こえる。
「決めた! 全部、買っちゃいましょう! 店員さん、これとこれとこれを…」
買い物を済ませた母娘と入れ替わるように、ベルは売店の品物を眺めていた。押し花のしおりに、花畑が描かれたポストカード。造花で作られた髪飾りに、花を材料にした香水……。ベルが品物を眺めていると、売店のおばあさんが声をかけてきた。
「いらっしゃい、黒い髪のお嬢ちゃん。何か気に入ったものでもあるかい?」
「いえ、品物を見ていただけです。」
「お嬢ちゃんのきれいな黒髪なら、髪飾りも似合うと思うけどねぇ。色は黄色や橙色みたいに明るい色の方が……」
おばあさんがお人形の洋服を選別するかのように、少女に次々とお勧めの品を提示する。少女が表情一つ変えずにうろたえていると、コーネインが右手をぶんぶん振りながら急ぎ足でベルのいる売店へと駆け寄ってきた。
「ごめんね、ベルちゃん。少し待たせちゃったみたいね。」
「おやおや? お嬢ちゃんのお姉ちゃんかい? おやおや、これは珍しい。ダオスタに
コーネインは〝お姉ちゃん〟という言葉に思わず笑みを漏らす。彼女はおばあさんに向かって一礼すると、申し訳なさそうに応えた。
「ごめんなさい、売店のおばあ様。私たち、まだこの町に来たばかりなので、立ち寄らなければいけない場所があるのです。この町での用事が済んで帰りの電車に乗るときに、また訪れさせていただきますね!」
ベルとコーネインが高台に設置されている駅を出ると、目の前にはクレーター状に佇む町の光景が広がっていた。町の中心部には大きな噴水が設置されている。駅から噴水の間は水色に輝く大通りになっていた。大通りの両側には白いコンクリート造りの商業施設が立ち並んでいる。噴水の先には赤レンガ造りの住宅街が広がっていた。
「美しい町ね。」コーネインが呟く。
すると突然、黄色い花びら交じりの強い風が吹き付けた。甘い花の香りが辺りを漂う。コーネインがおもむろに町の周辺を見渡した。黄色い花に彩られた山々が、城壁のように楽園の存在を押し隠している。コーネインは感嘆の吐息を漏らすと、彼女はカバンから一通の手紙を取り出した。
「まずは、依頼主のお家へ向かいましょう。駅からお家までの道のりは、親切にも手紙に記載されているわ。」
コーネインは取り出した地図とにらめっこをしながら唸っている。しばらくすると町全体を見渡し始めた。どうやら、目的地の場所が判明したらしい。
「駅からだと丁度、町の真ん中を挟んで反対側にあるみたいね…。」
「分かりやすい目印があります。」ベルが町の中心にある大きな噴水を指さす。
「よかったわ! これなら道に迷うこともなさそうね!」
天高く昇る太陽の光に照らされながら、二人の葬儀屋はダオスタでの第一歩を踏みしめた。
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