第33話 正解の選択
~須田千佳子side~
「君の数秒を作ったその勇気が、君とその友達を救ったんだ。怖かったろう、後はゆっくりに休みなさい。」
死を覚悟した五里の拳が何時までたっても届かない。恐る恐る目を開けると目の前には一人の男が五里の拳を受けていた、ズボンで。
そのまま何度も攻撃をズボンで五里の攻撃をいなしながら、足払いで五里に膝をつかせてズボンを首に巻き付けて締め上げた。
「グッ......ア......ァ......」
あっという間に五里が沈黙した。
凄い!凄すぎる!終わったのかな?助かったのかな?
「終わったよ、来るのが遅くなって悪かったね。ってこれを羽織っときなさい。」
そう言って男の人が胴着を被せてくれた。そう言えば私は上半身裸だったんだ。
「芽依!生きてるか?」
大きな声で黒川さんを呼び掛けると、瓦礫の中から黒川さんが起き上がった。
黒川さんのお兄さんかな?だとするとあの一瞬で五里を沈めた強さも頷ける。
「生きてるわよ!来るのが遅いわよ!ってなんでパンツ一枚なのよ。」
「何だお前、ボロボロじゃないか。」
「うるさいわね!そこの化け物がクスリでぶっ飛んでて異様にタフだったのよ。ってこれは言い訳ね、ただ単に私が弱かっただけだわ。そのせいで健兄ちゃんが間に合わなければあずきちゃんもスダチカも無事じゃなかったわ。有り難う、健兄ちゃん。」
「こいつは確か高校生の時に空手の全国で準優勝してる五里って言う奴だ。負けても仕方ない。」
「負けてないわよ。2、3回吹き飛ばされただけよ。」
「ハイハイ、そう言うことにしといてやるよ。ほら警察も来たし事情を聞かれるだろうけど、正直に話しな。うちの親父は警察とも仲が良いから悪いようにはしないから安心して。」
パトカーの音が間近で止まり、大勢の人が来るのが分かる。あぁ家に帰れるんだ、落ち着いたらあずきにちゃんと謝ろう。
「う、うーん、あれまた知らない天井だ...あれ千佳ちゃんに黒川さんに......ぎゃぁぁぁ変態がいる!!」
「警察だ!!全員そこを動くな!!」
「お巡りさん!!変態です!!変態がいます!!」
あずきはそう叫んで助けに来てくれた黒川さんのお兄さんを指差した。
「ちょあずきっ!あれはね変態ではなくてね」
「女性が3人下着姿やボロボロの姿で生存を確認!そのそばでパンツ一枚の不審な男を発見!武器所持なし!観念しろ変態が!!突撃ぃぃぃ!!」
こうして私達は無事に保護されて、お兄さんは手錠を掛けられてパトカーに乗せられて警察署に連れられて事情を話した。私は一応事の発端者ではあるものの、先輩達が悪意をもって私も襲うつもりで騙されたと言うことで、特にお咎めなく釈放された。お兄さんも勿論釈放された。
パトカーの中で黒川さんがなぜあんなに早く廃工場に来れたのかと聞いたところ、あずきに小型GPSを埋め込んだ人形ストラップをあずきにプレゼントして、それを鞄に付けてもらい学校帰り別れてから、毎日おかしな動きがないか携帯でチェックしていたらしい。
私達が苛めを止めるように言って、それで止まればそれで良いし、他に変な輩が出てきてあずきに危険が迫っても直ぐに駆け付けれるようにし、工場に着いて敵の人数を確認して一人では厳しいと判断して健兄さんに電話で助けを求めたらしい。
本当に頭が下がる思いだ。この黒川さんがいなければ私はまだあずきを苛めていただろうし、今回も私もあずきも無事ではなかっただろう。
私は個別に一通り事情を警察に話して、待合室に行くと黒川さんとあずきがいた。
私は両膝をついて頭を地面に擦り付ける。
「あずき、今まで本当にごめん。負けたのをあずき一人のせいにして今まで酷いことばかりしてきた。どんなに謝っても遅いのは分かっている。こんなことしても傷は癒えないけど......ごっごっごめんなざい。」
「顔を上げて千佳ちゃん、私もねあの試合の時の最後のフライね、丁度太陽と重なって見失ってしまったんだ。それで取り損ねて、そしたらもうパニクちゃって変なことろに投げちゃって......ごっごめんね、ひっくひっく千佳ちゃん達の3年間が台無しにしちゃってごっごめんね......ずっと謝りたかったのに怖くて言い出せなかったの......ごべぶばざいぃぃぃうわーーん!!」
私達は互いに抱き合って泣きじゃくった。
「ひっくひっく千佳ちゃん前みたい私と友達でいてくれる。」
「ひっくひっくあずきが私のことを嫌いになっても、私は絶対にあずきから離れない!」
「ひっくひっく重いよぉぉ~うわーーん!」
「え?何の涙?ごめんなさい、まとわりつくとかそう言う意味じゃないのよ。」
「えへへ冗談だよ、私も千佳ちゃんから離れないよ。前みたいにお尻ペンペンしてくれる?」
「ちょっ何を言い出すの!前も今もしてないでしょ!ほら黒川さんがゴミを見るみたいに私を見てるでしょ!」
「えへへ」
「もうっ......」
私は覚悟を決めて黒川さんに正対し、再び地面に擦り付ける。
「黒川さん本当にご免なさい。黒川さんあなたがいなければあずきをまだ無視していただろうし、今日の事もあなたがあんなに早く駆け付けてくれなければ、私もあずきも何人もの男達にレイプされていた。助けてくれて本当にありがとう」
「私はあずきちゃんが許したのなら、特に言うことはないわ。」
「でっでも!」
「そうね、あなたの気が済まないのなら前歯でいいわ!」
「ひっ!」
「ふふっ冗談よ、そうねじゃあ岩鬼のモノマネで許してあげる。」
え?岩城○一ってモノマネするような特徴あったかしら...確か昔カレーのCMに出てたような……?
「久しぶりにお前のカレーが食ってみたくなったんだ......」
「「.........」」
「......え?違った?」
「「ぷっぷははっはははっははぁぁぁぁぁ!!」」
あずきも黒川さんも床に転げ回って笑っている。そんなに似てただろうか?
「今のどうなのよ殿馬さん!」
「秘打・花のワルツ!」
「岩鬼!」
「え?......今夜は俺がカレーを作ろうか。」
「「あははっはははっはまたカレーふぁはっははひひひぃぃぃ」」
二人とも笑いすぎて過呼吸になり、飛んできた婦警さんに紙袋を被せられていた。
こうして私達はパトカーに乗せられて帰路に着いた。あずきも黒川さんも次の日は大事を取って休むそうだ。私は学校でやることがあった。
私の中学で部活を引退してから今までの一連の行動であずきに不利益を起こしてはいけないのだ。あずきは黒川さんのお陰で少し改善されてはいるが、未だに多くの人達から無視されている。その首謀者である私の罪が罰せられなければならない。その結果退学になっても仕方がないと思うし、それくらいの事を無責任に何も考えず行ってきたのだ。
黒川さんにトイレで返り討ちに合った事以外の事の経緯を全て担任に話した。
その結果言い渡されたのが1週間の謹慎処分だった。
被害者でもあるはずのあずきが担任に相当嘆願してくれたらしい。謹慎一週間の初日にあずきが家に来てくれて、「ドカ○ン」という少し前の野球漫画を全巻置いていってくれた。あずきが帰って間もなくして黒川さんが来てくれた、それも「ドカ○ン」全巻を持って。「あなたのために持ってきて上げたんじゃないんだからね。」と見事なツンデレ発言が出たが、じゃあ有るので持って帰ってくださいとも言えないので受け取っといた。
しかし何で同じ漫画の本なのだろうか、部屋にある400冊近いドカ○ンを目にして、彼女等の優しさが目に染みてきた。たぶん嬉し涙だったと思う。
一週間後、やや緊張ぎみに家を出て学校への道を行くも、やはり不安が頭を掠める。私のした事は回りの皆は知っている、今度は私が苛められたりするのではないだろうか、そうでなくてもその非難の目に晒される日々に耐えられるだろうか。でもこれは私があずきにしてきた罪の罰、甘んじて受けなければならないのだ。
「何、難しい顔してるのよ!」
「千佳ちゃん!一緒に行こ!」
あぁ良かった!中学でソフトボール部を引退して以降、間違い続きの私の選択は、ここに来て正解を選べたのだと確信できる。
「うん!」
「岩鬼!」
「え?......や~ま~だぁ~はよホームラン打たんかい!」
「ふふっ」
どうやら正解だったみたいだ。
「それはそうとスダチカ、あなたソフトボール部退部したんでしょ」
「うっうん、そうなんだよね、流石にね。」
「あなた今日から格闘技研究会だから。」
「えええぇぇぇ!!」
「ゴリラはクスリの過剰摂取で再起不能らしいし他の雑魚たちは一応全員骨折以上の怪我はしてるし、その後に少年院に入るやつもいるけど、割とすぐに出てくる奴もいるのよ。だから逆恨みされてまた襲われる可能性もあるのよ。」
「うっ...そっかまだ終わってないんだね。」
「大丈夫よ、ゴリラの1匹や2匹退治出来るほどに強くなればいいのよ。」
「で、出来るかな私に...」
「出来る出来ないじゃないわ、やるかやらないかよ。でも安心しなさい、私がついてるわ!」
それはそれで少し心配だけど......
「私も秘技・白鳥の湖を何時でも出せるようにしなきゃ。」
「あずきちゃん.........あれは封印しましょ。」
「えええぇぇぇ!!」
それについては激しく同意だわ。
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