第22話 王の誕生

 現在俺は草木が生い茂る丘で、身体中に草木で擬装し猿の合戦のすぐそばでうつ伏せで気配を殺して身を潜めている、かれこれ約8時間くらい。

 ローニャンは変なテンションで解説し始めて、講談師のように途中で扇子で机を叩く音を口で真似たりして、可愛いんだけど早口過ぎてあまり何言ってるか解らない。

 辛うじて聞き取れた情報によると、暫くは一進一退の攻防が続いてたんだけど、やはり先日の戦いで戦力を失ったのが痛かったのか、徐々にヴァイオレンスコング優位になりつつあるらしい。

 日も着れ始めてこのまま決着が付くのかなと思い始めた矢先に、ローニャンが一際興奮し扇子の口真似が激しさを増し始めた。どうやら今まで戦に参加していなかった東を縄張りとするグレイデェアモンキーがアースドエイプ陣営に参加してきたのだ。これでアースドエイプは態勢を持ち直して、再び拮抗状態になった。

 本当に余計なことをするなよ!戦が長引くじゃないか!

 でもさすがに完全に夜になると争いも一旦終わるようで、両者とも最低限の人数を置いて休むのかなと思いきや、夜目がきくグレイデェアモンキー達がヴァイオレンスコングに夜襲を仕掛けたのだ。

 これには流石にヴァイオレンスコングも焦ったようで、闇雲に拳を振り回すが只でさえスピードで上回る上に夜目がきくグレイデェアモンキーに当たるはずもなく、この一晩でヴァイオレンスコング少なくない数を減らす事となった。明け方になり辺りがうっすらと明るくなって姿形が見えてきたところでグレイデェアモンキーは素早く退散していき戦場に静けさが戻った。

 ローニャンも十数時間も解説ならぬ講談し続け、やっと俺の頭の中も静けさが戻った。途中興奮しすぎて少しオシッコが出ちゃいましたテヘとか言ってたけど、冗談だよね?俺の頭の中で何してくれてんの!俺の脳ミソちゃんと脳漿の中で漂ってるよね?


 「よし、《気配遮断》も習得できたし、しかもLvも3まで上がったからそろそろこの縄張りを抜けて目標の洞窟へ向かうか。」


 『ふぁ!?ご主人様何を言っておられるのですか?戦は今から佳境に入る所ですよ。恐らく今日が雌雄を決する戦いになるでしょう。』


 「それ、ローニャンが只見たいだけでしょ。もう一つ言うなら講談したいだけじゃないの?」


 『なっ!私はご主人様が解説しろと命じたので、嫌々解説してただけです。訂正を求めます!』


 「はいはい、ローニャンは俺に命じられて嫌々講談をしてました。もう二度と扇子で叩く口真似なんかさせない事を誓います。」


 『ぐぬぬ......』


 やっぱりしたいんじゃないか。


 『分かりました。今晩ご主人様の変態プレイにお付き合いしましょう。何がいいですか?人妻ですか?JKですか?JCですか?痴漢ですか?強姦ですか?』


 「待て待て、どんどん犯罪的な方向に向かってるから、俺にそんな性癖はない。って言うかそんなに見てたいわけなの?」


 『私は特に見たい訳でも、節を付けて話したい訳では御座いません。私はご主人様の事を思ってもう一日の滞在をご提案させて頂いたのです。ご主人様は《気配遮断》を獲得出来たと言ってもまだLv3。この先を進むにはLv3では新宿二丁目を裸になって四つん這いで歩くようなものです。』


 「それはもう気配遮断じゃないよね、って何で新宿二丁目を知ってんだよ。.........分かったよ、もう一日ここで《気配遮断》のレベルアップに勤しむよ。」


 『ご理解いただき有り難うございますご主人様。』


 3年位掛かるって言われてる攻略だから、別に急いでる訳じゃないし、確かにここで《気配遮断》をレベルアップさせるのは得策なのかもしれないな。


 万が一見つかったり予想外の事が起きた時に、即座に離脱して目的地の洞窟に向かいやすいように、両軍の斥候を警戒しながら合戦場の端から目的地側の端へ《気配遮断》を用いながらに移動する。

 日が完全に上ると共に両陣営が再び集結し出す。それに連れてローニャンもウズウズしだしてるのが伝わってくる。


 「はぁ~仕方ないな~、ローニャン俺はまたうつ伏せになってるから解説お願い。」


 『!?なんと言うご主人様でしょうか、昨日に続いて今日もそんな過酷な仕事を押し付けてくるなんて、ですが私も超高性能サポートナビゲーターとしての矜持が有ります。ここはその大役を任されましょう。さぁ臨場感たっぷりにお聴かせますので、ご主人様は得意のうつ伏せで土を舐めながら聞き惚れてく下さい。

 再び相見える事になった両陣営、西に見えるは......』


 「確かにこのダンジョンに迷い混んで半分以上はうつ伏せだけども、別に得意なわけではない。」


 あぁもう自分の世界に入っていて耳に届いてないや。


 そこから俺のする事は一つだけ、只ひたすらローニャンの少しずつ上達してきている講談に耳を貸しながら《気配遮断》。同時に魔法の練習でもしようかなと考えたところ、察知される恐れがあるのでお止めくださいと言われたけれど、あれは絶対ローニャンが聴き手が欲しいだけだよね。現に今は気配を殺しつつ《身体強化》と《金剛》と《幻手》を使いながら、切り分けた生肉を幻手の上に取り出して《水操作》で水分を抜き取り干し肉を作っている。うつ伏せなので見えていないが、たぶん上手くいっているだろう。


 段々時間が経つにつれて戦いも激しさを増していっているようだ。早口でよく分からないがローニャンの扇子を叩く口真似の激しさでそれを察する。何やらグレイデェアモンキー陣営に強い個体がいるそうだ。若干毛並みも他の茶色とは違い、黄色に近い色をしていて目立つそうだ。

 一族を率いて昨日の敵と協力し、強大な敵に立ち向かう。陣営を的確に指揮するだけじゃなく、己自らも何匹もヴァイオレンスコングを倒しているそうだ。どこの主人公だよ!


 『どうやら決着が付いたようです。ヴァイオレンスコングのボスが倒されました。』


 ボスが倒され失意のどん底のような様子で落ち込むヴァイオレンスコング達、それとは正反対に勝どきをあげるグレイデェアモンキーとアースドエイプ達。


 「そうみたいだな、やはり決め手は昨晩の夜襲か。あれで数を減らせたのが効いたな。」


 『いえ、決め手は夜襲でも数でも御座いません、一人の金色の英雄です。』


 は?金色の英雄?またなんか壊れだしたのかな...

 頭がおかしくなったローニャンを心配するのをよそに、辺りが急に騒がしくなった。一匹の黄色い毛並みの猿が突然苦しみだしたのだ。


 「あの黄色い猿どうしたんだ。」


 『黄色ではありません金色です。』


 苦しみだした黄色い猿に向かって、アースドエイプやグレイデェアモンキー達が敵であったヴァイオレンスコングまでもが頭を平伏し出した。


 『あ~なんと神々しい瞬間に立ち会えたことでしょうか。』


 「何だどうしたんだ?」


 『金色の英雄がネームドモンスターに進化しました。その名もハヌマン様です。』


 様!?

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