第42話 帰還

 「勝手に殺さないでよ」


 MP切れと大量の出血により一時は意思を失っていたみたいだが、聖剣ナイフを何度も足に刺してできた傷と両腕の火傷の痛みで強制的に目覚めさせられて痛みに耐えていたところ、気を失っていた二人と一匹の声がして、顔だけムクッと上げて誤解を解いておく。


 「ぎゃぁぁぁ!お化け!!」


 「ひっ!」


 「いや、だから死んでないから、死にそうだけど...」


 「ああぁぁいぎでぶぅぅ~よがっだぁ~うわ~~ん!」


 「本当に良かった......でも黒川さんあなた腕が......それにこの血の量...」


 「うわ~ん!芽以ちゃんの腕が無いよぉ~!」


 「ちょっと起こしてもらっていいかな、自分じゃ立てなくてね」


 二人に起こしてもらうと、無いと思われていた両腕が地面の中から姿を表した。


 「ああ!腕がある!よがっだぁ~!」


 「腕があるのは良かったけど、何でまた地面に埋まってたのよ?」


 「火がね、腕に燃え移ってしまって消そうにも中々消えなくて、意識も朦朧としてくるし流石にあせったわ。土の中なら酸素不足で消えるんじゃないかと思ってね、気を失う寸前に思いっきり地面にマッハパンチで地面に腕を打ち込んだんだけど、上手くいって良かったわ、起きたら両腕が炭化してましたなんて流石に笑えないしね」


 「腕が無事でも今のボロボロの黒川さんを見て誰も笑わないわよ、それに足も...私の聖剣が刺さってるし...ごめんなさい...また私たちを助けるためにこんな...ボロボロになって...」


 「両腕の火傷も私の魔法で出した火のせいだよね...ごめ、ごべんなざ~いぃぃ~」


 「それは違うわよ、二人のスキルと魔法がなかったら、今頃私達全員あの玉無しゴブリンの胃の中だったかもしれなかった、それにこの傷は只単に私が弱かったから負っただけよ」


 「ヒックヒック...芽以ちゃんは弱くなんかないよ、芽以ちゃんが弱かったら私なんかミジンコみたいなもんだよ」


 「ふふっ...そうね」


 「...そこは肯定しちゃうのね」


 「バウバウ!」


 「そうね、あなたも頑張ってたわね、約束通りサダチカの胸を堪能して良いわよ」


 「バウゥ~~!」


 「きゃっ何!?ちょっ何で服の中に!あっ!そこは!?転がしちゃダメっ!!ちょっあずきあなたの犬でしょ!止めて!」


 「こら!ケルベ!千佳ちゃんのおっぱいにいたずらしちゃダメでしょ!どうしてもやりたいなら私のにしなさい!」


 「.........」


 サダチカの服の中でこれでもかと言うほど自分をさらけ出しているケル公が、襟口から顔を出してこれでもかと言うくらい胸を張って強調するあずきちゃんを一瞥し、正確にはあずきちゃんの胸を見、そして自分の手の中にある豊満な胸と見比べ、悲しみと哀れみの目を向けて首を左右に降り溜め息をはいた。


 「あははちょっと躾が必要みたいだねこの糞犬、そんなに千佳ちゃんのおっぱいがいいならあの世で一緒に乳くり合えばいい、地獄の炎にこの世界諸とも焼かれて灰になれ!ワールドエンドヘル...」


 「こっこらっなんて物騒な名前の魔法を使おうとしてるのよっ!そんなことしてるから黒川さんがまた床に臥せてしまったじゃない!」


 「...か、身体中が痛いし、魔力が欠乏してて意識が朦朧としててとても立ってられないのよ...」


 「あわわ!ごめんね芽以ちゃん!おぶるから掴まって!」


 「私は隣でヒールを掛け続けてみるわ!」


 「ありがとう、でも二人ともまた気を失ったらダメだから無理しないでね」


 こうして私たちはそれからグルグルとダンジョンをさ迷い続けてやっとのことでダンジョンから脱出した。

 途中で出会ったゴブリンやスライムたちは、あずきちゃんがケルベの〇玉にデコピンをして吐かせた炎で対処したらしい。

 家路につくと私はすぐさま病院に連れていかれて、そのまま1週間ほど入院することとなった。

 入院している間ににお祖父ちゃんや警察の方にに事情を説明して、早速お祖父ちゃん筆頭に健兄ちゃんや高弟たちがダンジョンに入って行った。

 3泊くらいかけて10階層まで行ったらしいのだが、10階にとてつもなく強い牛の頭のモンスターと戦った際に、何人かは私たちみたいに何らかのスキルを得たみたいらしい。

 すぐに警察か自衛隊が管理するのかと思っていたが、どうやら世間はそれどころではなかったらしい。

 今回の世界中で同時に起きた大きな地震の震源地に同じようなダンジョンが発生していて、そこから更にモンスターが大量に溢れ出てきてしまったらしい。

 所謂モンスタービートと言われる奴だ。

 案の定世界中でパニックになり少なくない犠牲を出した。

 でも、うちの道場の裏のダンジョンは何故かモンスターは溢れることはなかった。

 世界中でも何個かのダンジョンはモンスタービートを免れたらしく、そういったダンジョンは必ず事前に人が入ってひと際強いモンスター、ネームドモンスターを倒していたことが分かった。

 なので今後もいつ起こるかわからないモンスタービートに備えて、ネームドモンスターを発見し狩るべく定期的に人を投入していくというのが世界各国の共通認識となった。




 「おはよ~あずきちゃん」


 「あっおはよ~芽衣ちゃん!」


 「おはよう、黒川さん今日から登校なのね、もう体の方はいいの?」


 「おはよ~サダチカ、体の方は大丈夫なんだけど暇で暇で死にそうだったわ、それより今日の放課後ダンジョン行きましょう」


 「あんたね~退院して登校初日早々に」


 キンコンカンコ~ン


 『あ~てすてす、え~1年B組黒川芽以、如月小豆、須田千佳子は放課後に格闘技研究会の部室に集合すること、繰り返す、1年B組黒川芽以、如月小豆、須田千佳子は放課後に格闘技研究会の部室に集合すること、いいわねん逃げたら顔面舐め回すわよ♡』


 キンコンカンコ~ン


 「……何今の放送」


 「あっそうだ私学校の帰りにちんすこう買ってきてって頼まれてたんだ、そういうわけだから芽衣ちゃんと千佳ちゃんで放課後お願いしますペコリ」


 「何がペコリよ、沖縄のお土産を学校帰りに頼む親なんかいないでしょ、あんたも行くのよ」


 「え~今のって格闘技研究会の唯一の部員で1年間停学してた人だよね、なんか怖いよ~」


 「何をしたら1年間も停学になるのか気になるところではあるけど、逃げたら殺すって言ってたわよね。ふっ退院早々に修行の成果が見れるかもしれないわね」


 「いや、殺すとは言ってなかったから」


 「安心しなさい五里みたいな奴でも今の私なら壁のシミにできるわ」


 「あなたが言うとシャレにならないから怖いわ」


 「芽衣ちゃん修行って言ってもずっと入院してたんじゃ……」


 「あっもしかして芽衣、あなたずっと重力魔法を自分に使ってるんじゃないでしょうね」


 「ふふ、そのもしかしてよ!おかげでまだ朝なのに大腿四頭筋が悲鳴を上げてるわ」


 「道理で腰を落としてすり足でお相撲さんみたいな歩き方してるなって思ったら」


 「大丈夫!心配しないで、あなたたちにもちゃんとかけてあげるから」


 「ごめんね芽衣ちゃん、私ソフトで半月板が爆発しちゃってあばばばば」


 「わ、私も家の家訓でねずみ講と重力魔法には気をつけなさいって言われぐがっががががが」


 

♦♦♦♦♦♦



 その日の放課後


 「腕十字からの指舐め、からの袈裟固めからの鼻舐め、から~の上四方固めからの尺八、から~のローリングクレイドルからのまんぐり返り尺八」


 3階建て校舎の3階の隅の隅にほかの部室から遠ざけるように格闘技研究会、略して格研の部室はあった。

 しかし、その部室から聞こえる何ともいえぬ獣じみた息遣いと卑猥なワード、恐る恐る気付かれぬように少しだけ引き戸を開けて中をうかがう。


 「ふぅ~ウォーミングアップ終了っと、それにしてもあの子たち遅いわね」


 そこで目撃したのは等身大ダッチワイフに何とも言い難い技の応酬を掛けまくる巨漢の男。


 「ねぇ芽衣ちゃん中はいんないの?先輩来てた?」


 「何か物凄い音はしてたからいるのはいるんじゃない」


 「……中にはモンスターがいたけど人間はいなかったわ、帰りましょ」


 「えっえっモンスター?どういうこと?帰るの?」


 「早く!気付かれるわ!」


 「だったらこの重力魔法解きなさいよ!」


 急いですり足で帰ろうとする三人、そこで勢いよく部室の扉が開かれた。


 「待ってたわよぉ子猫ちゃんたち!」


 「ぎゃぁぁオークだぁぁぁ」


 「逃げるのよあずきちゃんサダチカ!」


 「逃がすか!」


 2m近くはある巨漢に似合わず素早い動きで行く手を遮る男、その男こそ空手全国大会で五里を下して優勝し、更にレスリングや柔道といった様々な競技に精通していると言われ最強高校生との呼び声が高い、だがその極めて変態的な性癖ゆえに対戦者を次々と精神病院送りにしてしまい様々な競技連盟から抹消されるという経緯を持つ。


 「初めまして子猫ちゃんたち、わたくしが格研の部長こと奧 勇(おく いさむ)、ユウちゃんって呼んでいいわよん」


 「やっぱりオークだぁ!!」


 「ユウちゃんって呼べって言ってんだろうが!」


 息を荒げた2m近い筋肉質の体にレスリングユニホームを着る最強高校生、ただしオカマである。

 


~~~ 2章 完 ~~~


 次回から時間が2年ほど進み再び主人公?柳聡介の話になります


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叔父の自分探しの旅が終わらない たけのこ @takenokoboy

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