第20話 猿の森

 装備よし!天候知らん!食料は腐るほどある、《アイテムボックスEX》は時間が進まないので腐らないのだが。飲料水は...地底湖の水が丸々残ってるけど、あって困るものでもないし補充しておこう。


 準備よし!


 「ローニャン!火属性の魔石を持つモンスターを狩りながら攻略していこう!」


 『ご主人様、射精したら元気が出たようで何よりです。』


 「ダァァァーーー!!ローニャン!その通りだけど、もっとオブラートに包んで!!」


 『一人ダンジョン露出音声のみプレイと言えば良かったですか?失礼しましたご主人様。』


 「ギャァーーー!全然オブラートに包んでない!寧ろ赤裸々に表現されてるよ!!」


 そうなのだ。少しまともなものを口にして、今までの理不尽な出来事や先の見えない不安等から、感情が昂ってしまいローニャンの声で朝から自慰に耽けるという恥態を晒してしまったのだ。何たる不覚、穴があったら入ってコンクリートを流し込んで10年くらいそっとしといてほしい.........


 でもまぁなんか色々吹っ切れた.........あれ?スッキリしただけ?


 『次は病院で入院したという設定にしましょう。』


 「次は無い。」


 何だよ、そのAVみたいな設定は!


 『ご主人様の性癖の話はこのくらいにして、先程言われた火属性の魔石を持つモンスターの件ですが、私のこのダンジョンの情報はご主人様がスキル狼娘娘ロウニャンニャンを賦与された時点での情報なので、確実ではありませんがこの近辺には火属性の魔石を持つモンスターはいないと思われます。只、火属性の魔石を持つ飛竜種のドラゴンはまだまだ先の方に巣を作っているのですが、ドラゴンは行動範囲が広いので出会えるかもしれません。』


 「ド、ドラゴン!?......やっぱりいるんだ......暫くは生で良いかな。カルパッチョ美味しいし...」


 『そうですか、では発見次第積極的に狩るということで、当初の予定通りクンナバカルナの棲み家を目指すということで宜しいですか?』


 「そうだな、ドラゴンは発見したら遠目から眺めて、死にかけてたら止めを刺す、既に死んでたらなお良しという方向で、クンナバカルナの棲み家を目指そう。」


 ドラゴンなんかファンタジーにおける絶対強者だろ。しかもこのダンジョンのモンスターいちいちデカくて強いからからドラゴンも絶対にとんでもない化物に決まってる。


 『畏まりました。ご主人様が昇天するのが思いの外早かったので、予想外の事がなければ夕方くらいには到着するでしょう。』


 「ぐはっ!!」


 流石はローニャンのスキル《口舌の刃》、LVmaxなだけあって俺のステータスに表示されない精神力をガリガリ削ってくる。


 「じゃ、じゃあ行きませそ。」


 『ご主人様、日本語が変ですよ。』


 若干フラフラになりながら三度ニシンの臭いで汚染された部屋を通り、外へと続く通路を渡って恐る恐る山の中腹に出る。


 「ヨシ、亀はいないみたいだな。」


 『私の魔力感知範囲内にはベヘモスはいません、只......』


 「あぁ分かってる皆まで言うな。俺も今それを確認した。」


 入り口に置いたニシンより大分離れた眼下に見えるのは、サンドワームの半分くらいあろうかと思われる緑色の物体X。これはベヘモスが夜中にすぐそこまで来たということだろう。ニシンの臭いを嫌ってここで引き返したんだろうか?だとするとニシンバリアすげぇな。入り口に置いたニシンとラナ・ダーファングの棲み家に置いてあるニシンを回収して、その物体Xの方に向かって小走りで下山していく。


 「これちょっと緑色なのはクンナバカルナを食べたからかな?」


 『恐らくそう思われます。』


 あの野郎、人んちの庭先でデッカイ糞していきやがって、躾のなってない亀だ全く。取り敢えず収納しておこう。何かに使えるかもしれないし、使えなかったらクンナバカルナの棲み家の近くにでも埋めてやろう。

 別にそんな事する義理も情も無いんだが、あの1人で大勢の猿の軍団と戦って勝利して、喜びも束の間に足掻らえない不条理な力で押し潰されて、呆気なく命を散らした姿がどうも自分と重なって見えた。俺はまだ散ってもいないし散るつもりも無いんだけど、この山の中腹で風化されて消えていくのがひどく悲しく思えたんだ。それがたとえ自然の摂理だとしても。

 しかしベヘモスはこの距離からニシンの臭いを感じるとは相当鼻がいいんだな。


 「ベヘモスって嗅覚強化みたいなスキル持ってんのかな?」


 『サンドワームを倒したときに、かなりの距離があったにも関わらずご主人様を凝視してましたから、そういったスキルを持っている可能性は高いですね。』


 「ニシンで倒せるかな...」


 まだ《アイテムボックスEX》の中に、爆発寸前のニシンの缶詰が4缶も残っている。時間が停止していると解っていても、早く処理したいのだ。


 『...どうでしょうか、効くとは思いますが、それでラナ・ダーファングの時のように倒れるかと言われると、あの大きさですからやってみないとわかりません。』


 「そうだよな、でも倒せないまでも、逃げる隙位は作れそうだな。」


 『激臭使い...』


 「ん?何か言った?」


 『いえ何も、ご主人様そろそろアースドエイプの縄張りに差し掛かります。』


 切り立った山を下山し、森に差し掛かる手前でローニャンが注意を促してきた。ローニャンの感知スキルもLvアップしているらしく、今では半径500m程の魔力を感知できるらしい、超優秀。


 「どれくらい居るかわかるか?」


 『半径500m圏内に50匹ほどです。』


 「まだ結構多いな、迂回して行けないのか?」


 『右迂回ルートはグレイデェアモンキーの縄張りです。』


 「左は?」


 『左迂回ルートはヴァイオレンスコングの縄張りです。』


 「猿ばっかだな!!」

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