第19話 美味しくいただきました

 「はぁ~知ってる天井だよ。」


 無駄に高い天井の無駄に広い部屋、俺が落ちてきた大きな地底湖がある振り出しの部屋で目が覚めたダンジョン生活11日目。

 この11日間で攻略できたのは階段を下りた所の一部屋だけ、結構頑張ってると思うんだけどなかなか進まない。


 『御早う御座いますご主人様。今日は一段と冴えない顔ですが、まだどこか痛みますか?』


 「有り難うローニャン、少し肋骨が痛いけどこの顔はディフォルトなんだよ。これが俺ね、これが君のご主人様標準顔です。」


 『私はどんな顔のご主人様でも文句も言わず、忠誠を誓う所存です。』


 「結構酷いこと言ってる自覚あるのかな?その優しい口調が何故か折れた肋骨に響くんだけど、それは何かのスキルなのか?」


 『ピロローン!ローニャンはスキル《口舌の刃》がLvMAXになりました。口だけで他者を自殺に追い込めます。』


 「他者って言っても聞こえてるの俺だけなんだから、俺を自殺に追い込むスキルなのかよ!!こわっ!この子こわっ!!あいたたたホントに肋骨に響く。」


 『大丈夫ですかご主人様。すいませんでした。悪ふざけが過ぎました。』


 「大丈夫、大丈夫!少し痛んだだけだから。」


 《痛覚耐性Lv2》があってこの痛みなんだから、無かったらと思うと恐ろしいな。


 『本日はどうされますか?もう少しここで回復するのを待ちますか?』


 「そうだな~それも良いけど、いい加減先へ進みたいからな~ここから一番近い寝床にできそうな所ってどれくらいかわかるか?」


 『ここからですと100キロメートル程先に比較的安全な洞窟があります。以前は他のモンスターの巣だったのですが、昨日そのモンスターは死にましたので今は空いているかと思います。』


 「えっそれって...」


 『はい、昨日ベヘモスに食べられたクンナバカルナの巣です。』

 

 ん~何だかな~


 「因みに他のルートは?」


 『遠回りする上に、他のルートも違うモンスターの縄張りを通ります。この階層は多種多様なモンスターがひしめき合い、常に生存競争が繰り広げられていて命のサイクルが早いのが特徴です。』


 「ん~何れにせよ進むなら戦闘は避けられないのか、よし!猿ルートで行こう。クンナバカルナと戦って数も減らしてるだろうし。」


 『畏まりました。そうと決まればご主人様食事にしましょう。聡四郎、聡五郎、聡六郎出ておいで!エサですよ!』


 「こらこらペットみたいに言うんじゃないよ、それにエサなのは呼ばれてる子達だからな、いや食わないけどな。それにな今日は朝ごはんはアルカプルルの刺身とアルカプルルのサンドワームの体液和えって決まってんだ。」


 『人面魚の生と人面魚のミミズ和えですか。』


 「その言い方は止めろ。俺も段々人間の食事から離れていってるなと感じてるんだから。」


 《アイテムボックスEX》からアルカプルルこと2mを超える人面魚を出して捌くのだが、ここまで人の顔に似せてくると捌きにくいな。取り敢えず頭を落とそう、そうすれば只の魚だしな。


 指先から《ウォーターカッター》の噴出するイメージを限界まで細くして加圧させ噴出させると物凄いスピードが出て、それをアルカプルルの頭部に当てるとアッサリと切断できた。切断されて頭だけになると殆ど人だな、仕事にくたびれた中年のみすぼらしい感じが妙にリアルで怖い。


 体の中からソフトボール大の濃紺色の魔石を取り出す。


 「ラナ・ダーファングの魔石はダークグレーで、アルカプルルはネイビー、サンドワームはダークブラウンまではいかないか、ブラウンだな。これはやっぱり属性とかが関係あるのか?」


 『ご明察ですご主人様。魔石は色によって属性が判別できます。ラナ・ダーファングの魔石は無属性、アルカプルルは水属性、サンドワームは土属性に分類されます。大きさはモンスターの大きさによって変わりますので一概には言えませんが、より濃く深い色の魔石の方が魔素が多く凝縮されています。なのでサンドワームのスイカ大の茶色の魔石よりも、メロン大のラナ・ダーファングやアルカプルルの濃い色の魔石の方が遥かに魔素含有量が多いのです。そしてそれらを内包するモンスターは例外なく強いです。』


 「ふーん、そもそも魔石って何に使えるの?集めてる俺が言うのも変だけど。」


 『魔石は膨大なエネルギーが凝縮された結晶体であり、その利便性は多岐に渡りますが、現時点でご主人様のお役に立つ使い方は、やはり魔法の触媒にすることですね。無属性と水属性の魔法適性を得られたご主人様は、その属性の魔石を身に付けて魔法を行使すると魔法の威力が上がります。

 適性を持たない属性の魔石でも、魔力を通すと初歩の魔法は行使することができます。例えば火属性の魔石があれば、適性が無くともそれに魔力を通せば火くらいは起こせるでしょう。』


 「つまり、火属性の魔石があれば適性を持たない俺でも火をおこせれるってこと?」


 『ご主人様が持っておられたガスバーナー位の火力ですが。』


 「よっしゃぁ~肉が焼けるぞ!」


 これで少しは人間らしい食事ができそうだ!


 心なしか首だけになったアルカプルルの顔が良かったね~って言っているようだった。でも怖いのでさっさと収納しておこう。


 アルカプルルを《ウォーターカッター》でザックリ三枚に下ろし、背中の中トロ部分を刺身用、赤身部分を和え物用に切り分ける。刺身は適当な大きさに切り、和え物は赤身を細かく切り、サンドワームの体液と混ぜる。そしてさらにもう1品、狼生肉も出して薄くスライスしてその上にサンドワームの体液をかけて出来上がり。所要時間1分くらい。


 アルカプルルの刺身、アルカプルルのサンドワーム和え、ファイティングウルフのカルパッチョの出来上がり。


 うん、美味い。刺身は上品で仄かに甘味のある脂が、口の中で広がっていくようだ。和え物はアルカプルルの脂の甘味とサンドワームの濃厚なバターのような甘味と合わさって凄くしつこい甘さだ。でも、味があるっていうだけで美味い。このファイティングウルフのカルパッチョも美味かった。少し塩気のある生肉とサンドワームの濃厚な風味がよく合う。生ハムメロンだな。


 少しまともな食事をすると、涙が出てきた。


 何で俺はこんなところで腕一本無くしてサバイバルしてるんだろう。両親は心配してるだろうか?日本にもダンジョンが出来たらしいけど、モンスターの被害に合ってないだろうか、再び帰れる日が来るんだろうか......ラーメン食べたい。


 『ご主人様、なぜ泣いておられるんですか?何処か傷みますか?』


 「いや、痛くて泣いていた訳ではないんだ。遠くの故郷を思い出して少し寂しくなってしまったのかもな。でももう大丈夫だ。」


 『申し訳ございませんご主人様。ローニャンはご主人様の涙を拭うことも、寄り添って一緒に泣くことも出来ません。』


 「いや、ローニャンは充分サポートしてくれているよ。」


 『いえ、まだまだです。私ではご主人様の寂しさを取り除くことは出来ませんが、紛らわす事はできます......ご主人様、目を閉じて私の声に集中し、私を想像してください......』

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