第18話 べへモスはミミズがお好き

 「どうやって倒すんだよコレ!!」


 サンドワームが今の攻撃で補食するのを諦めて、頭を逆U字にして地面に潜りだす。その間に《鑑定EX》でサンドワームを鑑定する。


⚫サンドワーム 年齢不詳

⚫両性

⚫Lv 45

⚫体力 33000/33500

⚫魔力 6200/6700

⚫力  3800

⚫防御 1800

⚫技量 1500

⚫俊敏 1800

⚫スキル 自動再生Lv6 振動感知Lv6 


 うむ、体力バカだな。あの再生スピードを見たときはどうやって倒すんだよって思ったけど、組織は再生しても体力は回復しないようだ。それに《自動再生》にはMPが消費されるっぽいな。あのスピードで傷が治るなら《回復EX》より《自動再生》の方が優れてるのかと思ったが完全にそう言う訳でもないようだ。


 怒涛の勢いで再び地面に潜っていくサンドワーム、すぐ目の前を特急列車が通過してるような迫力だな。目の前に敵の体が無防備に晒されているので遠慮無く《魔弾》《ウォーターカッター》と貫通能力の高い魔法を撃ち込む。

 完全に潜り終わり束の間の静寂が訪れる。


 「ローニャン、サンドワームが逃げてったってことは......ないよな。」


 『はい、今はUターンして再びこちらに向かっております。その距離70』


 あれだけ体力が有れば爪楊枝でつつかれたくらいで逃げはしないか。


 「ローニャン、また10を切ったらカウントダウンしてくれ。」


 『はい、現在距離30です。!?サンドワーム地表に出ます!』


 「何!?」


 30m手前から地表に出たサンドワームはそのスピードのまま禍々しい口を大きく開けて飛び込んできた。


 「ぬおっ!!」


何とか間一髪で左に避けて《魔弾》を打ち込もうとするも、着地の僅かな振動を察知したのか、尻尾をこちらに曲げてきた。


 「なっ!!《金剛》《ウォーターシールグハッ!?」


 避けれないと判断し防御系のスキルを掛けるも《ウォーターシールド》が間に合わず、そのままミミズにはねられて大きく弾き飛ばさて地面に叩き付けられる。


 「ゲホッゲホッゲホッ!!」


 クソッ本当に列車にはねられたみたいだ、はねられたこと無いけど。また肋骨が何本か折れたみたいだが、幸い手足はちゃんと動いた。何でこう毎回毎回骨を折ってくるんだよ。

 また真下から攻撃してくるのかと思えば、手前から突撃してくるとは。

 再びミミズは地中に潜ってしまっていて、辺りには静けさが戻る。


 「なぁローニャン、その辺の石ころを地面に投げて振動を誤魔化したりできるかな?」


 『どうでしょうか、振動感知がLv6でしたので相当細かい振動も聞き分けられると思われます。200m離れててもご主人様の足の振動を察知して獲物と判断したのですから、これだけ近いと心音等から判断されて策が通じなくても不思議ではありません。』


 「ダンジョンではミミズすらも高性能なスキル持ってんだな。」


 『ご主人様来ます!真下に距離20』


 今度は下からか、これは大丈夫だ。初めのように慎重にいけば避けれる。初めと同じように《魔弾》を5個発動させて備える。


 「またカウントダウン頼むわ。」


 『はい、距離10』


 『5、4、3、2、1、来ます!』


 「そいやっ!!」


 再び大きくジャンプして避け真下からの攻撃を回避する。すかさず振り返り《魔弾》を撃ち込み、さらに勢いよく上方に伸び続けるミミズの横っ腹にナイフで突き立てる。ミミズはまだまだ上方に伸びていくので、弾き飛ばされないように堪えながら、ナイフを突き立ててミミズを裂いていく。

 ミミズのクリーム色の体液を全身に浴びてベトベトになってしまうが、深さ10cm位の傷をサンドワームの体の3分の1くらいの長さを付けることができた。当の本人からすると擦りむいた程度の深さだろう。しかし、そんなたわいもない傷にすら《自動再生》が使われる。10秒もすれば傷痕すら残らない。

 再び地中に戻るサンドワーム、今度も真下から攻撃を仕掛けてくる、真下からの攻撃には最小限に避けて、《魔弾》とナイフで細かく傷を付けていく。

 初めは30m程手前から地表に出てそのまま飛び込んでくる攻撃にはビックリしたが、この攻撃には安全策を取り逃げに徹する。飛んでくる特急列車並みの重量に対して人間が多少強化したところで出来ることなぞ一つもない。


 真下からの攻撃には避けての反撃、飛んでくる攻撃には大きく遠くへ逃げるを繰り返すこと4時間。いい加減こいつも漬け物を諦めろよとも思うが、何せ体力はバカほどあるからまだまだ自分は元気と思ってるのかもしれないが、実際はそうではない。着実にお前は死へとちかづいている。サンドワームが潜りしなに再び《鑑定EX》を掛ける


 『ご主人様、真下に距離20』


 「ふぅ~長かったな、次でラストだ。」


 もうすでに恒例となったこの一連の動作を、今回も気を引き染めていつも通りに繰り返す。膨大な体力に対して多少の傷を与えても直ぐに修復してしまうので殆ど有効なダメージは入ってないのだが、塵も積もれば山となるとはこの事で同じように《魔弾》とナイフで傷を付ける、そうするとその瞬間から《自動再生》のスキルによって再生が始まり、みるみるうちに傷は消えてサンドワームは頭を逆U字にして再び地中に.........帰らない。そのまま地面と激突した。


 俺は近づきながら《鑑定EX》を掛け


⚫サンドワーム 年齢不詳

⚫両性

⚫Lv 45

⚫体力 28500/33500

⚫魔力 0/6700

⚫力  3800

⚫防御 1800

⚫技量 1500

⚫俊敏 1800

⚫スキル 自動再生Lv6 振動感知Lv6


 魔力が0であることを確認する。魔力欠乏症である。

 俺もうつ伏せで魔法の特訓をしていた時に1度経験したのだが、これは体力は有る状態では殆ど自覚は無いのだ。魔力が減ってきても少し疲労感があるな程度で、そこから0になると急に視界が暗くなりブラックアウトしてしまうのだ。こうなってしまうと俺の場合は2時間くらい目が覚めなかった。サンドワームはどうか知らないが止めを差す時間くらいは大丈夫だろう。

 少しの傷でもMPを消費して勝手に再生してしまう優秀なスキルが仇となったわけだ。

 

 「ローニャン、魔石の位置は分かるか?」


 『はい、頭から3分の1の所が一番魔力を強く感知していましたので、恐らくその辺りかと。』


 「よし」


 このデカさなので表面を開いて手を伸ばしても魔石まで届かない。となると中に入らなければならないのだが、自らまだ生きているモンスターの体内に入るのは少し躊躇われるのだが、そんな悠長な事も言ってられないので覚悟を決める。


 「お邪魔しまーす。」


 『ごゆっくりしていって下さいね。』


 「結構ですー。」


 ローニャンの言った通りスイカ位の大きさの魔石が頭から3分の1の所にあった。しかしラナ・ダーファングの黒色に近い魔石と少し色が違って焦げ茶色である。

 体の中から魔石を取り出すと、それまで体液を運ぶ血管や筋肉の拍動が静かに動きを止める。


 『ピコーン!レベルが上がりました。』


 「おっレベルが上がったな。」


 『おめでとうございますご主人様。』


 その後レベルアップのアラームは鳴り続け、今回の戦闘でレベルが5上がり、《魔弾》もレベルアップした。


 「このサンドワームの死骸はどうすっかな、あまり食欲そそる見た目じゃないからな。これは食べれるのかな、どうなのローニャン?」


 『体に付いた体液を少し舐めてみてはどうですか?』


 「え!?これ舐めるの?」


 恐る恐る腕に付いたクリーム色のサンドワームの体液を舐めてみると、意外に悪くない。いや、寧ろ美味しいと言っても良いレベルだ。少し油っぽいが仄かに甘くバターのような濃厚な香りがする。


 「何これ!!美味しいな!!この味を知るとこいつも少し可愛く見えてくるな。」


 『おきに召しましたか。では後2・3匹狩りますか?』


 「いや、絶対いい、止めて、ごめん、俺が悪かった。」


 『このサンドワームはこのフィールドのモンスター達も好んで食べます。特にご主人様の遥か後ろですが、こちらを見てるベヘモスなんかは大好物ですね。』


 「いっ!?マジで!アイツこっち見てるのか?」


 『ご主人様は体も締まっていて、栄養価も高い上にサンドワームの体液でコーティングされていたら、良いふりかけになると思われても不思議ではないと思われます。』


 「漬け物の次はふりかけかよ!!そのうち箸置きとして狙われそうだな!!」


 サンドワームを収納し、体に付いたサンドワームの体液を流すために最初の地底湖まで急いで戻った。その間も何やら視線を感じたがベヘモスではないと思っておこう。サンドワームでもデカかくて苦労したのに、それよりも何百倍以上ありそうな化け物に勝つ算段なぞひっくり返っても出てこない。念のためにラナ・ダーファングの棲みかに落ちてるニシンを入り口付近にも置いといた。

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