第9話 スキル考察
ラナ・ダーファングの30cm位ありそうな鋭い牙に滑り止めの布を巻き付けて弧を描いている片面をその辺に落ちてあるキメの細かい石で研ぐ。切れ味は殆ど期待できないが、やらないよりマシだろう。そうして即席の切れ味の殆ど無い刺突性能に特化したナイフを2本作成した。1本を手に取り感触を確認するために少し体を動かす。体力も傷もまだ6割ってところか、だが以前とは比べ物にならないくらいパワーとスピードを感じる。これがレベルアップの恩恵か。
だがファイティングウルフを想定したシャドーを行うも一気に向上したステータスに頭が付いていかずに、勝てるのは勝てたが只単にパワーとスピードでごり押ししただけだ。これではラナ・ダーファング級のモンスターと遭遇した場合、敗北は必死だろう。
「これは予想以上に技が繰り出しにくいな。」
再び目を閉じて今度は2匹のファイティングウルフを出現させる。現実と同じように5m程の距離から2匹同時に一足で距離を詰めてくる。レベルアップ前は全く対応出来なかったが、今はスピードでもパワーもやや上回るくらいか。
2匹の攻撃をしゃがんで避け、そのまま左のファイティングウルフに足払いで転倒させる。右のファイティングウルフが振りかぶって爪を突き刺してくるのをナイフいなす。がら空きになった胸元に踏み込んで鳩尾に肘打ちを与えて距離を取り、後方を振り返り貫手を放ってくる攻撃を体をいなして避けそのまま左脇で挟む、そのまま噛みついて来るのを下顎から脳天に向けてナイフで突き刺して1匹仕留める。
振り返りると狼男が両袈裟懸けの爪攻撃、ナイフを手放し限界までしゃがんでその攻撃を避けて、同時に手にアイテムボックスに収納してあるもう1本のナイフを取りだし腹部にナイフで一突き、ナイフ手放し身を屈める狼男の首を持ちそのまま投げ背後を取り首を腕で固めてそのままへし折って討伐完了。
まぁ現実はこんな上手くいくはずがないが、大分頭と体が同調してきた。
『......ご主人様、気でも狂れましたか?』
そりゃ傍目からしたら飛んで跳ねて脇を閉めてオリャーって叫んでるんだからそう言われるのも無理はないが、もう少しオブラートに包みなさいよ。
「いや、大丈夫だ。イメトレをしてただけだから。」
『そうでしたか、それは失礼しました。それはそうとご主人様は無属性魔法の方も練習されてはどうですか?』
「そう言えばそんなのあったな、無属性魔法って何かよく解らないからほったらかしだったわ。俺的には肉が焼けるから火属性が良かったんだけど。」
『そうですか、でも無属性魔法はかなりレアスキルな上に使い勝手がよく、体術が得意なご主人様にとても合う属性なんですよ。』
「へぇ~カ○ハメ波でも打てんの?」
『流石は聡明なご主人様!知ってらっしゃったんですね、まさにその通りです。』
「マジか!!でも片手だから無理じゃない?」
『では片手の方でいきましょう。』
「片手って魔○光殺砲の方か!」
『はい!では、あのプカプカ浮いている聡二郎目掛けて打ってみましょう。』
「まだ浮いてたんだアレ。よし!ぬぐぐ......魔○光殺砲ぉぉぉ!!!!」
「......」
『............ッ』
「......」
『.....ッ..........プハッ......』
「何も出ないじゃないかよ!!ねぇ、お前俺に何をさせたいわけ?そんなに俺を貶めて楽しい?ねぇ。」
『......お見事でした。危うく只のスキルの私が笑い死にさせらるところでした。』
「で、結局この無属性魔法で俺を笑い者にする以外で何が出来るんだよ!」
『いえいえ、実際に練度を上げていけば無属性魔法の《魔弾》という遠距離攻撃を習得できるのです。その他には身体能力を一時的に向上させる事が出来る《身体強化》、体を硬化させる《金剛》その他にも色々あります。先ずは《魔力操作》を習得してからの方が良いでしょう。
そもそも魔法とは例えるなら魔力という粘土をどの様な形にして使うかと言うようなイメージを持ってもらえると解りやすいかと思います。丸めて投げれば先程の《魔弾》であったり、それに火属性を帯びていれば《ファイアボール》になりますし、薄く広げて皮膚に這わせれば《金剛》、筋肉に這わせれば《身体強化》等とそれはもう多岐にわたります。なので魔法を使うに当たって大事なのは、使用者の適正と繊細で緻密な想像力とそれを形にし維持する集中力なのです。
そして魔力の粘土をスムーズに迅速に思い通りの形に持っていく為に必要なのが《魔力操作》なのです。』
「成る程、唱えるだけではダメなんだな。しかもそれを戦闘中に使うとなるとかなり練度が必要だな。あっでもその《魔力操作》ならもう習得してるぞ、Lv3だけど。」
『なっ本当ですか!?』
「ほら、ステータス!」
『すいませんご主人様。ステータスはご本人か《鑑定》を使うかしないと見えないのです。例えご主人様のスキルである私でも見ることはできません。なので一度ご主人様自身に《鑑定EX》を掛けては貰えないでしょうか。』
「ああ、分かった。」
そう言い自身の右手に《鑑定EX》を掛ける。
⚫
⚫種族 人間
⚫レベル 28
⚫体力 1280/1560
⚫魔力 560/570
⚫力 680
⚫防御 530
⚫技量 1370
⚫俊敏 750
⚫スキル
⚫魔法 無属性魔法
⚫状態 良好
《成長EX》がどれだけレベルアップ時に影響してるのか解らないけど、結構チートのような気がする。それでもファイティングウルフよりもやや勝る位で、ラナ・ダーファングと比べるとまだまだ圧倒的にステータスは劣っているだろう。それは種族的な物で仕方がない、その差は知識や技術や武器や人数で補うのだろう。
『素晴らしいステータスですが、取り分け技量が著しく高いですね。本当に《魔力操作》が有りますし、それにこの武器スキルの数の多さは...一体』
「俺の家は接骨院と古武術の道場をやってたんでな、物心付いたときからずっと一通りの武器の稽古もさせられてきたからだろう。恐らく魔力操作も毎日稽古前は一時間以上は瞑想して気を練る事をしていたから、魔力と気はそこに魔素を挟まないだけで同じ扱いなのかもな。」
『...これは僥倖ですね。想定した以上に早く最下層に到達できるかもしれませんね。』
「そっそうか!いや~あんな凶悪なモンスターが闊歩してるダンジョンだから4階層で狭いダンジョンと言っても1ヶ月位掛かるかなぁって心配してたんだよ。」
『はぁ?何言ってるんですかご主人様。私は4階層とは言いましたが、誰も狭いとは.........ご主人様、モンスターが近づいて来ますので警戒してくさい。』
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