第30話 須田 千佳子
~須田千佳子side~
何でこんな事をしているのだろう。ずっと前から自問自答している。答えは分かっている、私が弱いからだ。中学生から始めたソフトボール部であずきと知り合い、かつては共に汗を流して共に笑い共に泣いていたのに...自分で自分が止められない。
あの試合も負けたのはあずきのせいだけではないと分かっているのに、一番苦しいのはエラーをしたあずきだと知っているのに、小柄な体格でレギュラーを勝ち取るために、誰よりも努力していたのを知っているのに......
あずきを無視するように働きかけてたソフトボール部のチームメイト達が、黒川芽依を恐れて無視するのを止めてしまった。その気持ちも分からなくもない、あの女はあのまま苛めを続けていたら本当に前歯全部を折っていたに違いない。私としても止めてくれてホッとしていたのに。
今私は黒いハイエースの後部座席に乗っている。あずきは私の横でお腹を殴られて気を失って横になっている。
初めはほんの軽い気持ちだった。振り上げた拳の落とし所がないのと、私一人だけあずきに謝れていなくて、昔みたいにどうでもいい話で笑い合ったりしたいのに、下らないプライドが邪魔して上手くいかないのがムシャクシャして、そんな時に偶々昔付き合っていた先輩に出会い、グチ聞いてもらっているうちに少しだけ驚かしてやろうって事になって、何故か先輩の仲間もゾロゾロ出てきて、何故かガラスまで真っ黒なハイエースが出動して、何故かあずきが殴られて拉致られて、黒川さんを呼び出すことになって......坂を少しだけ転がってみるとどんどんスピードが増して物凄い勢いで下り坂を落下していくのが分かる。
どうしても最悪な展開が頭をよぎる、それは多分心配し過ぎでもないかなりの確率で襲ってくる未来だ。せめて……せめてあずきだけでも逃がさないと……
「おい!千佳子着いたぞ、降りろ。」
「う、うん」
あずきを拉致して20分位走った所で降ろされた。
この男は私が中学校1年生だった時に3年生だった先輩だ。当時この男は野球部のピッチャーで爽やかで優しくて私の憧れだった。先輩に告白して付き合えた時には天にも上る気持ちだったけど、そう思っていた女性は私だけではなくこの男は数々の女と同時に付き合っていて私もその一人に過ぎなかった。
もちろんそんな恋愛なんか長く続くはずもなく、数ヵ月もしない内に別れた。原因なんか一杯有りすぎて覚えていない。
高校に入り暫くして怪我をし野球を止めてしまったと風の噂で聞いた。それからはあまりいい噂を聞かなかった。
「ここ何処?」
「あぁ?町の外れの廃工場だ。ここなら誰も来ないからな。」
車からあずきも抱き抱えられて降ろされる。車から降りてきたのは私とあずきを除いて5人、辺りも暗いしあずきを連れて何処かに隠れれば逃げ切れるか...
廃工場に入ると電気は通っているみたいで中は明るかったが、そこには更に10人くらい悪そうなチンピラがきゃっきゃと騒いでいた。
「五里さん連れて来たっすよ~」
「おぉ中条!そいつらがお前が言ってた女か、おい撮影班準備できてるか?」
「準備オッケーっすよ!」
その10人くらいの悪そうな連中の中心に、ひと際大きな体格で人相も凶悪な五里という男が鎮座していた。
その横でモヒカン何故かビデオカメラを持っている。どんどん嫌な方向にへ転がり落ちていく気がする。
恐怖で吐き気がしてきた。
「あと一人コイツら囮にして呼び出してるんすけど、そいつは待たないんすか?」
「あぁ?どれくらい掛かるんだ?」
「今、写メと場所をラインしたとこなんで、後一時間位じゃないっすかね。」
「んじゃあ先に始めとくか!」
「中条先輩何するの?驚かすだけって言ってたよね!」
「んあ?起きて自分がかつてのチームメイトに騙されて廻されてそれをAV撮影されてたら最高に驚くだろ!いい案だろが!ひゃっひゃっひゃっ」
「止めて!お願い!!こんなの頼んでないよ!」
「うるせぇよ!ゴチャゴチャ言ってないでさっさと脱げ!お前も出演するんだぞ!」
そうこうしてる間にあずきは壁際に置かれているキングサイズのベッドに制服を脱がされて下着姿で寝かされていて、五里と呼ばれていた巨漢の男が上着を脱ぎあずきに覆い被さろうとしていた。
「やめてぇぇぇ!」
「あいた!何すんだこのアマ!!」
五里に力一杯体当たりするも少しよろめいただけで大した効果はなく、片手で首を捕まれて持ち上げられて、もう一方の手で制服を無惨に破り捨てられる。
「いやぁぁぁぁ!!」
「寝ている奴を犯すのも悪くないが、やっぱりこういう反応が無いとな。ってお前相当大きいな。こりゃ色々楽しめそうだな」
「ひっくひっく......ごめんなさい、何でもしますから、あずきだけは許してください。」
「安心しろや、二人纏めて気持ちよくさせてやっから。まぁ後ろの奴等は変な性癖の奴も多いから知らんけどな、がははは!」
絶望で吐きそうだ。何でこんなことになってしまったんだろう。私はただ...あずきと...ごめんねごめんねごめんね。大好きだったのに...誰か助けてあずきだけでも助けて...
「誰か......助けて......」
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