第31話 秘儀 白鳥の湖

 ~須田千佳子side~


 「誰か......助けて......」


 「あぁ...その表情だけでイキそうだぜ。どれそのデカイのを拝ませてもらうぜ!」


 五里の太い指が私のブラジャーにかかろうとする。


 「ひっく......あず......き......」


 「どりゃせいっ!!」


 「!?」


 私の下着を外さんとする五里の手が下着に触れようとしたその瞬間、目の前を影がよぎり五里の腕が可笑しな方向に曲がる。


 「がっ!?いってぇぇぇぇ!!」


 「えっ?くっ黒川さん?」


 黒川さんが天井から落ちてきた。何で?まだライン送って間もないのに...


 「黒川さんごめんなさい、あずきを連れて逃げて!!」


 「はぁ?何で私があんたの言うこと聞かなきゃならないの?」


 え?今そんなこと言ってる場合じゃ......


 「ぐぁぁぁ!!いってぇぇぇぇ!!なんだてめぇ!!いってぇぇぇ!!コイツ俺の腕折りやがった!逃がすかこの野郎!!絶対に許さねぇ!!ぶっ殺してやる!!」


 「五里さん大丈夫っすか!うわっめっちゃ曲がってんすけど!」


 「へぇ~この警棒中々固いわね、気に入ったわ!」


 黒川さんが鉄の短い棒を素振りして感想を述べている。この人は何をしているんだろうか?


 「ひっくひっく......黒川さんお願いします。学校の事は後で土下座してでも謝るから、あずきを連れて逃げて、今なら逃げられるかもしれない。」


 「だからあずきをこんな目に遭わしたお前の言うことを何で私が聞かなきゃならないのよ!」


 「なっ何でそこで意地を張るのよ!!このままだと3人とも襲われちゃうの分かんないの!!」


 「分かってないのはお前だ須田千佳子。コイツらからここで無事に逃げれても住所も名前もバレてるんだよ。後で同じかそれ以上の事をしてくるに決まってる。」


 「そっそれは......そうだ警察に!」


 「警察だってずっとボディガードしてくれる訳じゃないんだよ。それにまだ襲われてないのに逮捕なんかしないでしょ。」


 「ひっくひっく......じゃあ......どうすれば......こんなの終わりじゃない」


 「終わりに決まってるだろうが!!俺の腕を折ったんだぞ!!絶対に許さねぇ!!特に髪の長いの!お前は廃人になるまで犯しつくしてやる!」


 「そう、奇遇ね。私も絶対にお前を許さないわ!ここにいる男共全員許さないわ!撲殺してあげるから直立不動で遺言でも考えながら待ってなさい」


 「おい!お前ら俺は向こうで腕を固定してくるから、その間コイツら犯して構わんぞ!」


 「「「ヒャッハー!!!」」」


 どこかの世紀末の悪者にような声を上げながら、中条先輩を始めとするチンピラ達が角材や鉄パイプを持って近付いてくる。あぁもうだめだ!黒川さんが来ても何も変わらない。


 「あんた達バカでしょ、こんな所に私一人でのこのこと来るわけないでしょ、後ろを見てみなさい。」


 「「!?」」


 一斉にチンピラ達が後ろを振り返るもそこには誰もいない。


 「何だよ誰もあべしっ!!」


 チンピラ達が振り返っているその隙に、黒川さんは先頭の鉄パイプを持った男にダッシュで近付き、側頭部に警棒で思いっきり叩き込み、その隣の角材を持った男の後頭部に綺麗なハイキックを打ち込んだ。


 「ひっ卑怯だぞ!お前!」


 「あんた達にだけは言われたくないわね。あの巨漢が二人連れて奥の部屋に行ったから......残り10か......丸太10本はまだクリアしたことないんだけど......」


 黒川さんがよく分からない事を呟き、床に落ちた鉄パイプをこちらに投げてきた。


 「スダチカ!悪いと思っているなら、それであずきちゃんを死んでも守りなさい!男が来たらそれをバットだと思って思いっきり打ちなさい!分かった?」


 「はっはい!!」


 「いい!岩鬼よ!」


 「えっ?はっはい!」


 イワキ?って何?岩城晃一?どういう事?暗号なの?岩城晃一は肌が黒い...肌が黒い...はだくろい...腹黒い...腹黒いは私?...私も腹黒く闘えと?...そういえば五里も私の胸を凝視してたわね...そういう事なのね。


 「ヒャッハー!捕まえたぞ!」


 「ぐっ!?」


 いつの間にかベッドの脇まで一人のヒャッハーの接近を許してしまい鉄パイプを持っている腕を捕まれてしまった。引っ張ってもびくともしない、私の手を力強く掴みながらベッドの上に上がってくる。


 私は......私は......何としてでもあずきを守る!


 「えいっ!」


 捕まれていない方の手で自分のブラジャーに手を掛けて勢いよく上にあげる!私の胸が弾むように飛び出す。


 「おおぉ!デカっ!!」


 確かに視線は胸に行き、捕まれている力も少し緩んでる。これなら...


 「えいっ!」


 全体重を乗せて捕まれている手を振りほどく、そのまま鉄パイプを両手に持ち、切り返して外角低めのソフトボールを打ちあげるイメージで全力で脛に向かって振り抜く!!


 「がぁぁぁぁ!!おでっおでっおでだぁぁぁ!!」


 凄い気持ちの悪い手応えがあった。これが骨が折った感触か...けど、弱音を吐いている場合じゃない。ベッドの上で痛みで喚いてる男の腰に全力で鉄パイプを降り下ろす。


 「がぁっ!?」


 アベシとは言わなかったがどうやら完全に気を失った様だ。


 「うっう~ん......!?え?ここは何処?千佳ちゃん?何で裸?え?あれ私も何で下着?」


 今の戦いの騒動であずきが起きてしまった。


 「あずき!今は説明してる暇はないからそこでじっとしてて!必ず無事に帰すから!!あずきだけは絶対に!!」


 「あずきちゃん!これを使いなさい!」


 「ふぇ?黒川さん?...何この男の人達?」


 黒川さんがあずきが起きたのに気付いて、床に落ちてる角材をこちらに投げてきた。


 「いい!あずきちゃんは殿馬よ!」


 「分かったづら!黒川さん!」


 ん?づら?あずき今ので分かったの?状況把握早すぎでしょ、何よ殿馬って?この子もしかして今の状況を夢と思ってるんじゃ......


 「ヒャッハーお前ら覚悟しとけよ!!」


 「千佳子!調子乗ってんじゃねぇぞこらぁ!!」


 やっと辛うじて一人倒せたのに、今度は中条先輩を含む2ヒャッハーが接近してきた。


 「秘技!白鳥の湖!」


 あずきが何やら可笑しな事を叫んで、角材を前に突き出し入れながらグルグルと回り始めた。元々よく分からない子ではあったけど、今が一番よく分からない。もしかして苛めとミスした自責の念で心が壊れてしまったの?だとしたら......ごめんね、ごめんねあずき......ちょっちょっあずきさん!私に角材が当りそうなんですけど...


 「きゃぁ~!!」


 「千佳ちゃん!よよよくも千佳ちゃんを!」


 グルグル回ったあずきの秘技・白鳥の湖は思いの外強く私は吹き飛ばされて、あろうことか中条先輩の胸の中に飛び込んでしまった。

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