第29話 力こそ正義

 それから日が経つにつれてクラスメートが何故か如月さんを無視するようになっていった。それに伴い如月さんの笑顔が少しずつ減っていった。

 私たちは結局何処の部活にも入らずに、学校が終わると他愛もない笑い話をして帰り、私はその後道場や裏山で汗を流して一日が終わっていた。

 どうにか小豆ちゃんの現状を出来ないだろうかと考えるも、私は今まで大半の諸問題を拳を使って解決してきた女なので、こういった場合どうすれば良いのか分からない。そもそも誰が先導して如月さんに苛めを繰り返しているのかさえも掴めていない、こういうのは率先している奴さえ潰せば、回りは流されているだけだと思うから収まると思うんだが......拳......使ってみるか......


 「おはよう如月さん!」


 「あっおはよう黒川さん!」


 私はそれから学校にいる間の空いた時間は、ひたすら大きな声で如月さんとおしゃべりをし、大声で笑い時には皆の目に留まるように内緒話をしたりして、なるべく目立つように如月さんに声を掛け続けた。

 そうすると3日もしないうちに、女子トイレで手を洗っているとクラスメートの須田千佳子と後は違うクラスの知らない人達5人に囲まれた。全員、如月さんや須田千佳子と同じように首にユニホームのアンダーシャツと思われる日焼けの後がある。コイツら同じソフトボール部の奴等か。


 「何?」


 「黒川さんあなたもうちょっと空気読んだら?」


 「どういう事?」


 「今、クラスみんなであずきを無視してるの分からないの?」


 「やっぱりそうなんだ。何でそんなことするの?あんた達同じソフトボール部だったんでしょ?」


 「あんたあの子が最後の試合に何したか知らないからそんな事言えるのよ。」


 「如月さん何したの?」


 「あの子は一番最後の一番大事な試合で、何でもないフライを落として同点にされて、その後大暴投して逆転されて負けたのよ!」


 「ふ~ん、それで?」


 「それでって、あんたなんかに3年間必死で頑張ってきてあんな終わり方になった私たちの気持ちなんて分からないでしょ!!取り敢えずちゃんと守ってよね!」


 「守るって何を?」


 「空気読めって事よ!!あんたちゃんと話聞いてたの!!」


 「それって如月さんを無視しろってことでしょ。そんなの嫌に決まってんじゃん。」


 「じゃなかったらあんたも酷い目に合うわよ!いい!分かったわね!!」


 別に私が酷い目に合うのは全然いいんだけど......っと


 「ぎゃふっ!!」


 言うだけ言ってトイレから出ようとする五人の内一番近い子に背中からドロップキックをぶちかます。


 「きゃあ!あんた何すんふごっ!!」


 続け様に須田千佳子に少し力を込めてボディに突きを入れる。


 「負けた責任や悔しい気持ちを一人に押し付けて、苛めるようなクズの気持ちなんか分かるか。」

 

 突然の事にパニックになっている一人の鳩尾に肘打ちを食らわして地面に投げる。叫びそうな子に前蹴りで壁に衝突させて跳ね返ってきたところをまた投げる。最後の子は恐怖でアワアワしているところを軽くビンタして胸ぐらを掴んでまたまた投げる、そして腹に拳を打ち下ろす。須田千佳子以外の意識を刈り取り、苦しそうにお腹を押さえて蹲る須田千佳子の髪を持って顔を上げる。


 「あんたらが数の力で苛めっていう行為を続けて如月さんに精神的ダメージを与えるなら、私は拳の力であんたらに肉体的ダメージを与えてあげる。5日後までにクラスの状況が改善しなかったらここにいる5人の前歯全部へし折るから。

 どうせその試合後からずっと何ヵ月も渡って如月さんを苛めて地獄を味合わせて来たんでしょ、それを前歯数本で勘弁してあげるんだから優しいでしょ。須田さん、ちゃんと気を失ってる人に伝えといてね。」


 と言いながら蹲る須田千佳子を仰向けに寝かし腹に拳を打ち下ろす。

 その日の昼休みに職員室に呼び出されて向かったら、そこにはソフトボール部の5人がいて、私の担任に暴力を振るわれたと訴えたらしい。その通りだけど...


 「黒川、この5人がお前に意識失うまで蹴ったり殴ったりされたと言っているんだがどうなんだ?」


 「いきなりそんなことを言われても、須田さん以外はクラスメートではないので名前すら知らないんですが...」


 そう言った途端に5人から猛抗議の声が上がる。そりゃそうだろう、実際にあった本当の事だし。しかし私は殴ったとは言っていないが殴ってないとも言っていない、ただ名前も知らないって言っただけだから嘘は言っていない、たぶん。


 「そうなんだよな~でも5人も言って来てるから、流石に無視はできないからな~」


 「何処か怪我でもされたんですか?怪我してるようには見えませんが。」


 「そうだな、お前ら何処か怪我したのか?」


 「私はお腹を殴られたわ!」


 「私もお腹です。」


 「私は背中を蹴られました。」


 「私はビンタされてお腹を殴られました。」


 「どれ、見せてみろ。」


 「嫌よ!!変態!!」


 「なっ先生に向かって変態とは何だ変態とは!!殴られたところを見なきゃ話にならんだろうが!!」


 その後、見せる見せないの押し問答があって決着がつかずに、昼休み終了のチャイムが鳴って取り敢えず解放された。お腹に拳形のアザがあったら面倒だったけど、担任が変態で助かったな。

 須田千佳子達の前を歩いて教室に戻ろうと扉に手を掛けたところで呼び止められた。


 「黒川さん!こんな暴力振るうなんて許さないわよ!」


 「そう、私もあなた達を許さないわ。須田さん達もう半日過ぎたけど後4日と半日しかないわよ、ちゃんと前歯にお別れして入れ歯の準備をしときなさいね。」


 青ざめる5人にそう言い残して教室に入り席に着く。


 「黒川さん何かあったの?」


 如月さんが振り替えって心配そうにこちらを伺ってくるのだが、やだ何この可愛い生き物!!


 「何でもないよ如月さん!」


 この天使の様な笑顔を守れるなら須田千佳子達の前歯の10本や20本安いものだろう。


 「如月さん、このストラップをあなたにあげるわ。カバンに付けといてくれると嬉しいわ。」


 「えっどうしたの急に?あっありがとう......これは猿かな?」


 「何か外国の神様でハヌマーンって言うみたいよ。顔凄い不細工でしょ。」


 「そっそんなことを......あはは本当だ不細工だね。」


 その日は特に何事もなく終わり、次の日も特に変わった様子はなく依然として如月さんはクラスで無視され続けていたが、3日目からは如月さんは朝から何人かに挨拶されていた。

 4日目も何人かに挨拶されていて、少しずつ改善されているように見えた。この調子だとその内に如月さんは普通の高校生活を楽しく送れるに違いない。そう思いながらいつも通り如月さんと楽しく喋りながら、途中で別れて帰路に着いた。

 家についてここ最近の日課になっているスマホを確認する。そして私は直ぐ様、聡兄ちゃんの部屋に行き警棒を取りだして背中に忍ばせて、自転車に跨がってこぎだす。


 「須田千佳子ぶっ殺す!」

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