第16話 B2階層

 長く薄暗い通路を抜けるとそこは大自然のパノラマが広がっていた。切り立った山々が連なり眼下には木々生い茂り、そこに広大な川が巨大な大蛇のようにうねりながら地平線の彼方まで伸びていた。ダンジョンなのに地上の昼間ほどの強い光が降り注ぎ、ダンジョンなのに強い風が吹き、ダンジョンなのに雲が掛かっているという何とも不思議な光景だった。


 「す、凄いなこれは……どれくらい広いのか検討もつかないな。」


 『この2階層のフロアは約200000キロ㎡の広さがあります。』


 「数字が大きすぎてピント来ないな。」


 『東京ドーム約4000000個分の広さです。』


 「よくテレビでその例え方するけどイマイチよく解らないよな。」


 『.........北海道約2,5個分の広さです。』


 「マジか!!デカ過ぎるだろ!!どんだけダンジョンコア暴走してるんだよ!!もしかして後の3・4階層もそれぐらい広いのか?」


 『そうですね、ほぼ同じ大きさで作られています。ただ、気候は異なっております。』


 「へぇーそうなんだ。もう嫌な予感しかしないんだけど。」


 『今居られる地下2階層が温暖気候で息吹の階層と呼ばれており、3階層が乾燥気候で灼熱の階層、最下層の4階層が氷雪気候で終末の階層と呼ばれております。』


 「うへぇ~3・4階は行きたくないな。モンスターよりも気候に殺されそうだな。っていうかここってモンスターしか居ないんでしょ?そんな中二病みたいな名前の階層は誰にそう呼ばれてるんだ?」


 『.........私ですが。』


 「.........」


 ローニャンってちょっと色々な要素含み過ぎだよな。ドSでドMで中二病でチ○コに興味津々って只の頭が可笑しい子なんじゃ......


 『......ご主人様、何か失礼なことを考えていませんか?』


 「いや、全く。」


 さて、どうしようかと少し岩場に腰を下ろし眼下に広がる景色を眺めていると、遥か先の森の木々の間から頭ひとつ抜け出して何か動くものを発見する。


 何だありゃ?生物か?山の中腹とはいえ見上げれば恐らく千メートル位はありそうな山。そこから見下ろして発見できるモンスターってどんだけでかいんだよ!じっと見つめて鑑定を掛けるも何も反応しない。流石に遠すぎるのか。


 「おいローニャン!何か凄いでかい奴がいるぞ!何だありゃ!」


 『あれはクンナバカルナという種類の巨人種のモンスターです。成体で体長30m位の大きさまで大きくなります。人に近い形をしていて緑色の肌を持ち、温厚な性格ですが基本雑食なので空腹時に近くにいると食べられる危険性はあります。』


 「あれはネームドモンスターなのか?」


 『あの大きさだと......通常個体かと思われます。』


 「あれで標準サイズなのかよ...ラナちゃんが可愛く見えてきたわ。」


 『ご主人様、ラナ・ダーファングはクンナバカルナを補食しますよ。』


 「.........マジかぁ~そんなに強かったんだラナちゃん。ホントよく勝てたな俺、ニシン様様だな。」


 遥か下の方で蠢く巨人を観察しながらこの果てしないダンジョンをどう進もうか悩んでいると、クンナバカルナが腕を降り下ろしたり、地面に倒れ込んだりしだした。


 「なんか巨人の様子が変だな。何かと戦ってるのか?」


 『ここからだと全く見えませんね。』


 「そうだな。かといってわざわざあんな化け物の近くには行かないけどな。」


 とは言いつつもいつまでもここに居てても仕方ないし、クンナバカルナみたいな巨人に挑むモンスターも気になるので、ゆっくりと観察を続けながら下山していった。当のクンナバカルナは近くの小高い禿げ山に登りだし、それを追いかけるように2m位ありそうな猿のようなモンスターがうじゃうじゃ出てきた。

 確かに木が生い茂るさっきの場所じゃ猿のフィールドだもんな。


 「猿もでかいんだろうけど、クンナバカルナと比べると子猿が戯れてるみたいだな。」


 『あれはアースドエイプという猿のモンスターですね。』


 アースドエイプが束になってクンナバカルナの至るところに噛みついているも、流石にあの大きさでは致命傷どころか大したダメージも入ってないように見えるが......あっクンナバカルナが片膝をついた。


 『ご主人様!ネームドモンスターです!!』


 「何!?あの猿の中にいるのか?」


 だとするとあの猿の中のどれかがラナ・ダーファング並みの強さを持っているとしたら、あのでかいクンナバカルナを倒すのも可能なのか。現にクンナバカルナは......体に噛みついた猿を片手で取っては地面に叩きつけては放り投げ、地面に叩きつけは放り投げて......ってまだまだ元気そうだな。

 みるみるうちに猿のミンチが出来上がっていく、遂には最後の猿に手をかけて地面に叩きつけてそのまま自分の口に放り込んで咀嚼し、大きな声で己の力を誇示するように吠えた。その声の振動が数キロ離れたここでも感じられる程だった。


 「あれ?猿全滅しちゃったよ。ネームドモンスター死んだんじゃないの?」


 『いえ、死んでません。あれはこのダンジョン最大級の大きさを誇るネームドモンスターでもある...』


 とローニャンが解説している途中で、小高い禿げ山の頂上でペシャンコになった猿を食べているクンナバカルナの後ろで何やら一際大きな突起が伸びていったと思ったら、途中で進路を変え逆Uの字を描き、そのままクンナバカルナの上に覆い被さって呑み込こんでしまった。


 「えっ?えっ??」


 『ベヘモスです。』


 「えええぇぇぇぇぇぇ!!!」

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