第26話 第二章 姪 降臨

(ダンジョン発生の3年前)


 熱い......胸に静かにたぎる熱い焔が消えない。寝ても覚めても消えないこの想いは何なのだろう?これが恋というやつか?それとも憧憬だろうか?それとも怒りか憎しみか。


 私の名前は黒川 芽依くろかわ めい14才 滋賀県出身、両親は健在で兄弟はいない。お父さんは普通のサラリーマンでお母さんは...主婦兼武道家?お母さんの実家が柳流古武術というローカルな武術の道場を営んでおり、お母さんはその教えを受けて育っており、結婚を機に一線を退きこちらに引っ越してきて私を産んだのだ。


 ある程度私が大きくなって手が離れると、柳流本家が滋賀にあるのでアルバイトがてらにそこで指導するようになった。その流れで私も物心ついた頃からそこの道場通うようになったのだ。


 柳流古武術の成り立ちは戦国の戦乱の世が終わり必要とされなくなった甲賀忍者が集まる村で、忍術と他の色々な武術が組合わさって確立されたらしい。なのでその戦いに対する根幹の考え方は何がなんでも勝つ、勝てれば多少汚くても良しとするという武士道とはかけ離れたものだった。だが卑怯でも勝てば良とする様な武術は当然流行る筈もないので、時代の流れと共に形を変えていき、一端の正統派の武術の様に正々堂々と戦う事を良としする物に変化していった。

 

 そんな時代に辛うじて適応し細々と続いていたのだが、私の曾祖父のその親である高祖父が幕末の時代に開拓民として北海道に渡り、そこで開拓をしながら柳流道場を開いたのだ。その当時の北海道では現地民や熊や賊などと戦うことも多く、そんな奴等に正々堂々と挑んでも鼻で笑われて殺されて終わってしまうだけで、必然と分家の柳流の教えも、かつて時代の変化と共に変わっていった教えを再逆行して、何がなんでも勝つという色を多くの含んだ殆ど別物に進化していったのだ。

 それが母の実家でもある柳流分家の成り立ちだ。


 そんな柳流の武術は元々の母親似の気性の激しい性格と合っていたのか一心不乱に練習に明け暮れた。

 中学生に上がった頃にはもう既に同世代では敵はいなく、学校の部活では空手に所属していたのだが、1年目から全国大会に出場する程になっていた。


 そんな中、1年に1回は北海道の母の実家に里帰りしていたのだが、中学2年の夏に恒例通り里帰りする予定だったのだが、本家の師範と高弟達が分家との交流試合と称した避暑地への旅行と日程が被り、私は高弟達と分家との試合に見学させられることになった。祖父や叔父達とは里帰りの際に何度か乱取りを取った事があるが、そこまでの強さを感じることはなかった。今更高弟達との試合を見たところで何か得るのものがあるのだろうか、それよりも札幌に出て買い物したり、札幌ラーメンを食べ歩きに行きたかったのだが、とこのときの私は生意気ながらにそう思っていたのだ。


 上座に本家の師範、その隣に座らせられた。こちらは大好きな札幌ラーメン祭りを延期させられたのだから、見学と言わず私も戦わしてほしいものだ。

 初めは先鋒、中堅、大将の3人制で行われたのだが、分家側は大将にお祖父ちゃん、中堅に聡兄ちゃん、先鋒に健兄ちゃんが出てきた。お祖父ちゃん以外の二人はお母さんの弟で私の叔父さんにあたるのだが、年も近いのでそう呼んでいる。と言うか呼ばされている。

 結果はお祖父ちゃん以外は惜敗。お祖父ちゃんは50はとうに越えているはずなのに、うちの一番の高弟に勝ってしまった。何なのだろうあの人間離れした強さは?体もこの中で一番大きいしオークか何かではないだろうか?だとすると私はオークのクオーターになってしまうのでそれは嫌だ。

 聡ちゃんと健ちゃんは負けたのにヘラヘラして互いのダメ出しをしていた。なん足る体たらく、そりゃうちの高弟達は間違いなく強い、が負けてヘラヘラしてるとは己らはそれでも武士か!!


 「ふぉっふぉっふぉやはり柳の女は気性が激しいのぅ、あ奴等の姉すなわちお前の母親も、お前とよく似て燃えたぎるような気性の持ち主じゃったわ。じゃが、今回の勝負は本家のルールに添って執り行ったものゆえ、あ奴等が負けても勘九郎も怒ったりはせんて。」


 むっ心に声が漏れてたか...


 「しかし師範、男子たるもの負けて歯を見せて笑うなど品を落とします。」


 「ふぁっふぁっお前はどこぞの時代のおなごよ!誰に影響受けたんじゃろか、もっと今時のおなごらしく甘い物を食べていんすたやツイッターでワッショイしたりせんか。」


 「師範、微妙に間違ってますが色々詳しいですね。」


 「昨日行ったススキノのクラブのミキちゃんが教えてくれたんじゃ。」


 「.........」


 「.........」


 「武を極めんとする男子はチ○コを切り落とすするべし!!」


 「ふぁっ!?お前何ちゅうことを大声で言い出すんじゃ!ほら皆こっち見とるやんけ!ワシがお前にイタズラしたみたいに聞こえるやんけ!」


 「芽依!よう言うた!その通りだ!あと負けたのにヘラヘラしてる奴も去勢するべきだ!よって聡介と健太郎は去勢しろ!!」


 「「うぇっ!?」」


 「何が『うえっ!?』だ!折角遠くから来られているのに情けない試合してからに、これからお前らの多人数組手を本家の高弟達に手伝ってもらってもらう。どちらかが戦闘不能になるまで行うので覚悟しておけこのバカたれが!!」


 「.........何や勘九郎の奴、めっちゃ怒っておるのう、お前は勘九郎の影響が一番大きいのかもしれんのう......」


 「師範、叔父さん達は一対一でも負けていたのに、多人数組手ではあっという間に勝負が着いてしまうので.........!?しかも武器あり!?ダメですお兄ちゃん達が死んでまう!!」


 「ふぉっふぉっ、そうか芽依は分家のやり方の組手を見るのは初めてか。分家の当主、お前の高祖父が此処に来たときは本当に苛酷な環境やったんじゃ。だから必然とその武もそれに適した物に変わっていき、今でもより実践を想定した取組を行うのじゃ。

 よう見とけ芽依。お前は確かに強かおなごじゃがお前の強さとはまた違う強さをあ奴等は兼ね備えておる。

 時に芽依よ、あ奴等はお前にお兄ちゃんと呼ばせとるのか、ならば芽依の小ちゃい頃から知っとるワシの事も勘九郎見たいにおじぃちゃんと呼んで良いのじゃぞ。」


 「.........師範、後で昨日ススキノでミキちゃんと楽しくしてたことを奥さん報告しますね。」


 「ふぁっ!?」


 試合開始が告げられたのだが、分家の方は聡兄ちゃんと健兄ちゃんが同時に素手で戦うようだ。対する本家の方は10人の様々な武器を持った高弟達。


 これは勝負になるのだろうか?


 私が心配した通り、二人とも袋叩きに合っている。これは止めなくて良いのだろうか?


 「あっ!」


 聡兄ちゃんが自身の緩んだ帯を素早く取り、それを横薙ぎに腹部に迫る棍を足で受け、帯を棍に巻き付け棍が戻るのを阻止し、そのままがら空きの高弟の腹部に強烈な蹴りを食らわし、高弟を吹き飛ばすと同時に棍を奪う。


 そこからは私の知る試合と呼ぶものではなかった。健兄ちゃんも相手の竹刀を奪い応戦し、二人は攻撃は食らいながらも急所を避けるように受け、飛んだり跳ねたり転がったりし、武器を投げ胴着を投げたり、挙げ句の果てに聡兄ちゃんは口に溜まった血を悪役レスラー並みに吹き出して、その隙に後ろへ回りバックドロップして試合が終了した。10人いた高弟は皆倒されて立っているのは聡兄ちゃんと健兄ちゃんの二人だけだった。まぁ二人とも終了と共に気を失ったが......


 「何やこれ......」




♦♦♦




 当初のこの小説の題名が「叔父と姪のダンジョン攻略」だったので、第二章はもう一人のサブ主人公である姪(黒川 芽衣)のパートになります。

 

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