第3話 狼マザーとその子供たち
俺が瀕死の重傷を負わせた狼男の回りに新たにやって来た狼マザーとその子供達、計8匹が取り囲み兄弟の負傷を悲しんでいるようだった。その中でも一際目立つ狼マザー、体長2.5m位、全身がダークグレーの毛で覆われており口に収まりきらない牙と鋭く長い爪を備えており、身体中に歴戦の勇者のような傷が無数につている。あと毛むくじゃらの乳房も。
狼マザーが先程戦った狼男の間接破壊した方の手を掴み、乱暴に持ち上げる。痛みで気絶から目が覚めた狼男が悲痛な叫びをあげている。そんな狼男の壊れた肘と断裂したアキレス腱を見て、狼男の耳元で何か呟いた瞬間に狼マザーが胸の中央辺りを貫手で貫いた。
「なっ!?」
あの硬い体表を易々と貫いたことにもビックリしたが、仲間だったはずの者を躊躇なく止めを指しやがった。貫いた手には野球ボール大の大きさの灰色の石が握られいる。それを取りだしこちらを睨みながら、次はお前がこうなるんだと言わんばかりに灰色の石を咀嚼しだした。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい、全身の細胞が危険だと警鐘を鳴らしているが、狼マザーに睨み付けられて足が金縛りにあったように動かない。
完全に沈黙した狼男を後ろの狼チルドレン達の所へ放り投げた。すると狼チルドレン達が死んだ狼男を貪り食いだした。
あぁ俺は地震の地割れに飲まれた時に死んでしまって、ここは地獄なのではないだろうか、そう思わせてしまうくらい目の前の光景はショックで地獄絵図だった。あの狼男が食べ尽くされるのもそんなに長くは掛からないだろう、そうしたら次は俺の番なのだ。
考えろ、何か生きる術を脳細胞をフルに使って考えろ。降りてきた入り口もアイツ等が出てきた出口も自分より狼マザー達の方が近い、それでなくとも逃げ込もうとしてもあのスピードで追ってこられたらあっという間に捕まってしまうだろう、だがあの一旦出口か入り口に入ってしまえば、此処よりも細い通路で戦った方が数の不利を無くせるか。だが1匹でもあれだけ苦戦したのに、それを後8回もこなせれるのか?しかもそのうちの一体は明らかに他の個体より数段強い。ダメだな、そもそも階段で一対一で戦える状況に持ってこれたとしても、あの脚力で俺を飛び越えてしまえば挟み撃ちにされてあっという間に終わってしまう。
考えろ考えろ考えろ俺、手には切れ味の悪い鉈、足元には投げ捨てたリュック、中身は衣類や食料品やお土産等、バーナーや調理に使うナイフ、携帯ランプに充電器、サイドポケットにボールペン、後は財布やパスポート類、銃などの鉈以上の武器になるようなものはない。そもそも銃であれを倒すのは無理だろう。的はそこそこ大きいがとてつもなく素早いし、例え当たったとしても急所でない限り動きを止めることすら出来ないだろう。それこそ爆弾等の範囲効果武器なら効果はあるかもしれないが...それでも狼マザーは生き残りそうだな...
狼どもが食べ終わり全員が血の滴る顔をこちらに向ける。1匹2匹と距離を詰めてくる。どうやら狼マザーは後ろで見物のようだ。母親が子供に小動物で狩りを覚えさせるような感じなのだろうか。これまで生きてきて殆どの時間を武道に掛けて磨きあげてきたのに、小動物扱いとは涙が出るね。
「俺の生きてきた意味はここで奴等の腹に収まるためなのか...クソッ!簡単に殺られてたまるかよ!」
壁を背にしてる俺の前に1匹の狼男が立ち殺気が立ち込める、その距離10m程。他はその後ろで広がって激しく吠えたり唸り声を挙げている。まずは一人ずつってか、そのまま舐めまくって油断しまくって俺に殺されてくれ。
コイツらの間合いは約5m、まだ大丈夫だ。
徐々に間合いを詰めてくる1匹の狼男から視線を外さずに、鉈で牽制しつつゆっくりとリュックに手が届くまで腰を落として、リュックの中からバーナーと衣類を纏めて取り出しサイドポケットからボールペンを取りだしズボンのポケットに忍ばす。ワンタッチ式のバーナーを素早く点火し、よく燃えそうな上着に燃え移らせる。動物は本能的に火を怖がるだろうと、安易な考えで衣類を燃やしているが......こいつらを地上の動物と一緒に考えて良いのか怪しいが牽制位にはなるだろう。
あまり悠長に構えてると衣類を持っている左手まで燃え移ってしまうのでこちらから仕掛ける。先程の戦闘から学ぶに狼男の動きは物凄く速いが直線的で攻撃も単調だ。
集中しろ、研ぎ澄ませ。
狼男が火を警戒して飛び込めないでいる、徐々に距離を詰めていき俺の間合いで戦えれば...
踏み込みを警戒しつつ徐々に近づいていくも、衣類の炎がいよいよ俺の手まで燃え移りそうになってきたので、狼男の上方へ放り投げる。本能的に物を上に投げたら目で追ってしまうものだ。特に火が付いた物であれば尚更だろう。
すかさず懐に入りワンテンポ遅れて来る爪攻撃の横薙ぎを体勢を低くしてかわし、思いっきり金的に蹴り上げをぶちかます。
「☆○▲▽★♯■!!!!」
良かった、こいつらにも金○まが有るのか微妙だったけど、毛で覆われて見えないだけでちゃんと有るみたいだ。狼男が苦悶の表情で股間を押さえて体勢が前屈みになり顔が近づいたところにポケットからボールペンを取りだし力一杯眼球に突き刺した。
「ガァァァァァァァァ!!!!」
ボールペンは途中で折れてしまったが、間髪いれずにサイドステップで横に回り、股間と眼球を押さえて苦しんでいる狼男の後頭部に全力のハイキックをお見舞いした。タフそうだから死んではいないだろうけど意識を刈り取ることに成功した。
「はぁはぁ取り敢えず1匹で、あと7匹か......ちと厳しいかな。」
傷をおっていた左腕が力が入らなくなってきている。腹部の傷も動く度に肋骨が痛いし、何より出血がひどい。
「ガウガウガウゥゥ」
「ワォンワォォォン~」
「グルルゥゥゥゥ」
周りの狼男共が殺気立っていてうるさい、今にも襲われそうだけど。
このまま一対一の先頭を繰り返して勝っていっても、ラストに狼マザーを相手するのはとても無理がありそうだ。それにいつまでも一人ずつという保証はない、むしろ次くらいは複数匹出てきてもおかしくない。かといってあまり時間も掛けてられないんだが...
案の定、今度は3匹前に出てきた。
無理、死んだかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます