第37話 美味しくいただきま~す

 約20匹程のスライムが徐々に近付いてくる。恐らく何の感情もなく、只補食するという本能のみで動いているのがいっそう恐怖を掻き立てる。捕まればどんなに喚こうが許しを請おうが淡々と溶かされてあの液体の一部になるのだろう。


 「めっ芽依ちゃんどうしよう!」


 「黒川さん...」


 二人とも私を見てくる。

 そりゃそうだ、二人は多少荒っぽい事を経験したけれどごく普通の女子高生なんだ。こんな死ぬか生きるかの戦闘を経験しているはずがない。いや、私もスライムに囲まれるなんて経験無いけど。

 私がみんなを守るんだ。


 「落ち着いて!アイツ等は溶かすと言ってもすぐに剥がせば、少し爛れるだけで致命傷にはならないわ!後、ケルベロスは何か火とか出せたりするの?」


 「ワンワンワワワン」


 「さんつけろや!だって。私が言ってるんじゃないよ!ケルちゃんだよ!」


 あずきちゃんが眷族と話せることにも驚いたが、見た目可愛い犬コロがオラオラ系なのもビックリだわ。


 「ワワワンワンワンワォーン」


 「10発くらい出せるぜ!お前には俺のホットカルピスを出してやるから、後で俺の寝室に来いやってケルちゃんがあわわわ」


 クソ犬の首根っこを掴んで持ち上げケルベロスをスライムの方へ向けてながら、ケルベロスのチ○コにコールドスプレーを一吹き掛けた。


 「バウゥゥ!!」


 「おおぉやるじゃないかケル公!」


 チワワ並の大きさのケルベロスの口から放たれたバスケットボール程の大きさの黒っぽい火球は、スライムの群れに着弾するも、すぐには消えずにいつまでもスライムの体表に纏わりついて燃やし続けた。どうやら普通の炎とは違うようだ。

 

 「ほれほれほれ~!」


 続け様にケルベロスのチ○コに連続してコールドスプレーを吹き掛ける。


 「バウゥゥァァアッアッアゥゥ~」


 しまったやり過ぎてケルベロスが白目向いてしまってしまった。

 昇天したのかな。


 「こらぁ~!芽依ちゃん!やり過ぎ!」


 「ごめんごめん!でっでもほら残り3分の1位になったよ!」


 あずきちゃんが手をパタパタさせて抗議してくる。


 「次は私の番ね!ホーリービーム!」


 「......出ないわね、ホーリーアロー!」


 「......これも出ないわね、セイグリッドボンバー!」


 「......これでもない」


 「サダチカさん、何をやっておられるのですか?」


 「魔法で攻撃したいんだけど、中々上手くいかないわ!」


 「名前とかの問題じゃなくてイメージや気合いとかが足らないんじゃない。」


 「ぐぬぬぬ......セイグリッドォォ~マジカルゥゥ~エナジーィィ~」


 「千佳ちゃん!足に一杯くっついてるよ!」


 「スパァァァァクゥゥゥゥ!!」


 サダチカの気合いを込めて聖剣を持っている方の手を天井に向かって突き上げてSMESセイグリッドマジカルエナジースパークと言う魔法を詠唱した途端に、サダチカの体が眩しいくらいに発光しだした。それと同時にサダチカにまとわ付いていたスライムと周囲1m程のスライムを含めてサクランボ大の石を残して綺麗に消し飛んだ。


 「凄いわサダチカ!残り5匹になったわ!ってサダチカ!!」


 「ちっ千佳ちゃん!?」


 片手を挙げて立ったまま白目を剥いている!己はラ○ウか!!

 そのまま後ろ向けに倒れそうになるところを慌てて受け止める。良かった気を失ってるだけみたいだ。


 「大丈夫、多分気絶してるだけだわ。」


 「千佳ちゃん今行くからね、寂しい思いはさせないよ。地獄の業火に焼かれろ!ヘルフレイム!!」


 「だから気絶してるだけだからね。」


 あずきちゃんが強そうな魔法を唱えて勢いよく前に出した両手から、先程のケル公の火球とよく似た黒い火球が飛び出し、残りのスライムの群れに着弾した。。ただし、大きさはケル公の火球の3倍くらいありそうな大きさだ。

 凄い!でも魔法の覚えたてであんなに威力のある魔法を行使して大丈夫なのだろうか、サダチカが気を失ったのがレベルに見会わない魔法を行使したためだとしたら...


 「凄いわあずきちゃん!ってやっぱり気絶してるし!」


 でも何とかあずきちゃんの魔法によって残りのスライム達は全部やっつけることが出来きて、取り敢えず目下の危機は去ったようだ。

 だけどサダチカが仰向けに倒れ、あずきちゃんがうつ伏せで倒れ、ケル公があそこを押さえながら倒れて......敵の攻撃は殆ど食らってないはずなのに何故かパーティーの危機という、本当に......どうやって運ぼうかしら。


 ケル公をTシャツの中に入れて、背部のズボンの間にナイフのような小さい聖剣を差し込み、あずきちゃんとサダチカを両脇に抱える。

 ケル公もそうだけど、聖剣も眷属も召喚者の意識が無くなっても有り続けるみたい。

 スライム達を大量に倒しレベルが4になったおかげか、二人を抱えて結構重いけど何とか運べそう。


 「あぁ重い!特にサダチカのおっぱいが重いわね!もいでその辺に置いといたらスライム達の足止めにでも使えないかしら」


 暫く皆を抱えて歩いていると、Y字路の分かれ道に出た。

 来たときは只をスライムを殴りたくてひたすら真っ直ぐ走ってきたけど、隣に通路があるかなんて見てなかったから、正直どっちから来たか全然分からない。


 「う~ん、どっちにしよう、何だか右半身が疼くような気がする。よし、右にしよう。」


 Y字路を右に曲がり暫く歩くと再びY字路に出た。今度は左半身がこそばい、左側か...


 又暫くすると今度は少し広い部屋に出た、そこから十字路に道が分かれて伸びている...


 「う~んいくら走ってたとしても、十字路になってればそれに気付くよね、ってことは何処かで間違ったのか」


 今度は又右半身がと言うか右胸が痛い、まるで何かに噛まれているような........


 「おい、お前なにしてんねん」


 「バウ?」


 胸元を見るとTシャツの中に入れていたケル公が、器用にブラをたくしあげて私の胸を舐めたり揉んだり甘噛みしたりしていた。

 このエロ犬、マッハパンチで壁の染みにしてやろうか。あっコイツ今舌打ちしやがった!もの足りなさそうに顔を振ってため息をつくな!そりゃあ平均よりかは小さいけど、お前のご主人様よりかは大きいからな!たぶんだけど。

 さっきから右や左に違和感があったのはお前のせいかよ。


 「バウバウ!!」


 急にTシャツから頭を出して前方に向かって吠え出した。


 「どうした?エロ犬」


 薄暗い通路の先に何かがこちらに歩いてくる。人?子供?段々近付くにつれてその容姿が明らかになってくる。背丈は140cm程で猫背で薄汚い布切れを纏っている。顔は目が血走り鼻が大きく口から涎が垂れ流されている。何より一番の特徴はその緑色の肌だろう。


 「先程のがスライムだとしたら、アレはゴブリンかしら」


 「ギャギャグガァァギャー!」


 向こうもこちらを視認したようで、手に持っている木の棒を振り上げながら、奇声を発して勢いよく走ってくる。話の通じる相手でもなさそうだ。

 両脇に抱えている二人を素早く下ろして、少し前に出て構える。


 ゴブリンは走ってきた勢いのまま木の棒を降り下ろす。モーションも大きく動きも遅いしスキだらけだ。特に焦ることなく後ろに上半身をスウェーして避ける。


 「ギャンッ!?」


 あ、胸元にエロ犬が入ってたんだった。もろに脳天に直撃してしまい又気を失ってしまった。

 続け様にゴブリンが木の棒を降り下ろしてくる。今度は避けずに懐に入り降り下ろされる前に木の棒を保持している手を掴み、捻って床に転がして腕を又に挟んでそのまま勢いよく倒れ込んで肘を折った。


 「グギャギャギャッ!!」


 スピードは大したことはないが、力は見た目よりあったな。


 「あいたっ!」


 足を思いっきり噛まれた!!勝負あったと思い込んで油断した!

 腕の拘束も解かれて、マウントポジションを取られて肘が折れているのも構わずに殴り付けてくる。腕を出して顔の前でブロックするも、その腕に噛みつかれた。ゴブリンが私の腕の肉を咀嚼している。私は食べられたのか?頭を両手で持たれて地面に何度も後頭部を叩きつけられる。ヤバイ意識が......


 「ギャギャギャギャ!」


 汚い顔がよりしわくちゃにして私を見下ろしている。

 コイツ笑っているのか。

 顔のサイズの割に大きな口と鋭い歯を私の首筋に向けてくる。


 食べられるのか私は......

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