第38話 ジョジョジョバァァァ♨

 何でこんなことになったんだろう。確実に私の方が強かったはず、でも今こうして意識が朦朧としてもうすぐ食べられようとしている。何が不味かった?何が足りなかった?私はここで死ぬのか?私が死んだら確実にあずきちゃんやサダチカも殺されてしまう。

 これが死。これが弱肉強食。弱者は強者の糧となり命を終える。私が油断したせいでゴブリンに食べられて、あずきちゃんやサダチカも食べられて......食べられて......


 「たまるかぁぁぁぁぁ!!」


 大きく口を開けて首筋に迫るゴブリンの顔面に、力を振り絞って頭突きを食らわして、微かにゴブリンの重心が後方に移動したところに、背中に潜ませてあったナイフサイズの聖剣を取り出して、ゴブリンのこめかみに突き刺した。

 流石に聖剣と呼ばれるだけあって、殆ど抵抗もなく鍔元まで突き刺さった。

 聖剣を抜くと側頭部から噴水のように血が噴き出して、そのまま仰向けに倒れるゴブリンにすかさず詰め寄り、何度も何度も狂ったように心臓に聖剣を突き刺した。


 「はぁはぁはぁ!左腕が!はぁはぁ......チキショー!」


 胸に数十の刺傷をおった無惨な死体と成り果てたゴブリンを見下ろすと熱くなった思考が段々と冷めてくる。

 我ながら怒りに任せて酷い止めのさし方をしてしまった。

 怒るのはいいがそれで冷静でなくなるのはダメだ。

 はぁ~全然ダメだな。私の左前腕の肉を食ったゴブリンもムカつくけど、それよりも命のやり取りと分かっていながら全くその覚悟が出来ていなかった事に、そして怒りに任せて我を忘れてしまった自分に腹が立つ。これがダンジョンなのだ、これが死合いなんだと気持ちを引き締め直す。私は今は二人と一匹の命も背負っているのだ。この腕の傷は自分への戒めだ。

 

 あずきちゃんの荷物を拝借さしてもらって、中から包帯を取り出して取り敢えず前腕を螺旋状に巻いて、その上からコールドスプレーを振り掛けて止血を試みる。すぐには止まらないがしないよりマシだろう。後あずきちゃんの荷物の中に何故かコケシが入ってたけど、それはまぁ触れないでおこう

 そうして再び二人と一匹を抱えても移動しようとしたときに、来た通路以外の3方向の道から複数の声がした。よりにもよって先程の洗礼を受けた相手と同じような声。

 先程のゴブリンが戦う前に喚いていたが、あれは仲間を呼んでいたのだろうか。

 ゾロゾロと出てきたゴブリンは合計15匹。


 「また沢山湧いて出てきたわね...」


 急いで来た通路に入り私の後ろに二人と一匹を下ろして、ギャアギャアうるさいゴブリン共と対峙する。道幅5mくらいはある大きな通路だけど、横に展開しても3匹程、囲まれることもないし、私が通さなければ後ろで寝ている仲間に危害は加えられないだろう。今度は油断も躊躇もしない。甘えや驕りが直ぐに死に繋がり、モンスター共の糧となってしまうのだ。それに私の後ろには二人と一匹もいるのだ。


 「ギャアギャア」


 「ギャギャアギャア」


 「ギャンギャギャギャギャ」


 本当にコイツらギャアギャア五月蝿いわね。


 「来ないならこっちから行くわよ。」


 あずきちゃんやサダチカのように魔法が使えれば纏めて倒せそうだけど、無い物ねだりしても仕方がない。


 「せいやっ!!」 


 「ギャン!?」


 挨拶がわりにコールドスプレーを勢いよく投げつけて、先頭のゴブリンの顔面に当ててその隙に右隣のゴブリンにドロップキックをお見舞いして後方のゴブリンを巻き込んで吹き飛ばす。

 立ち上がり様にコールドスプレーをぶつけたゴブリンに後掃腿を繰り出して転倒させ、その転倒したゴブリンの顔面にマッハパンチを10発程食らわしたところ見事に潰れたスイカみたいになってしまった。なまじ人に近い姿をしているだけに余計にエグい事になってしまった。

 これは......女子高生が持つスキルじゃないわね、気持ち悪くて吐きそう。けれどそんなことも言ってられない。

 木の棒を振りかざしてくるゴブリンに前蹴りで壁まで吹き飛ばし、素早く追いかけてマッハパンチ、壁と挟まれてまた潰れたスイカが出来た。その頭部の潰れたゴブリンの腕を持ちゴブリンの群れに向かって放りげた。仲間の変わり果てた姿を投げ付けられて倒れ込むゴブリン達、その難を逃れた隣のゴブリンとの間合いを詰める。振りかざした木の棒を持っている腕を降り下ろす前に片手で受けて、その伸びきった肘関節にマッハパンチを打ち込んで肘関節を破壊し、そのままゴブリンの腕を両手で持ち、遠心力を付けて後続に放り投げた。

 このままこれを数回続けていれば殲滅できるか...


  ・

  ・

  ・

 「はぁはぁはぁ......もう多すぎ!!」


 当初15匹だったのが、後から湧いて出るわ出るわで合計50匹位出てきたのだ。だが、通路で戦えば1度に3匹以上同時に戦うことはないので、只ひたすら1対3を繰り返して床や壁に脳漿をぶちまけたゴブリンの死体を量産し続けやっと一息付けたのだ。


 「はぁはぁはぁ......この死骸の山どうしようかしら......持って帰ってお爺ちゃんに報告した方がいいのかな」


 道場が管理する裏山にこんな人外な生物が襲ってくる洞窟が出現して、放置してたら大惨事になりかねないものね。

 ゴブリンの死体の山に向かって収納するように念じると、見事に殆ど収納された。只数匹残っていて、その全部が微かに息をしていたので、どうやら《アイテムボックスEX》は生きている生物は収納できないらしい。残った数匹に止めを差して収納する。


 「......」


 「ん?ケル公起きてたのなら倒すの手伝ってくれればよかったのに、ほらまた移動するからってなんで仰向けでお腹晒してるのよ。」


 (ブルブルブルブル)


 「何怯えてるのよ、何もしないわよ。」


 (ガクブルガクブルガクブル)


 「ほら、こっちおいで。いい子いい子してあげる」


 そう言ってケル公を持ち上げて撫でようとしたその時に......


 ジョジョジョバァァァァ


 悪鬼羅刹の如くゴブリンを撲殺しまくって返り血を全身に浴びて真っ赤にした芽依と先ほどまでの天井や床に臓物をぶちまかした死屍累々の惨状を見て恐怖のあまり失禁、そして鬼の胸元に失禁したことによるこの後に待ち受けるだろう我が運命を思っての失神。

 

 「わっ!何!?ケル公漏らしたの?ってしかもまた白目剥いて気絶してるし、もう何なのよぉ!」


 「グギャギャギャアアアアア!!」


 「ッ!?」


 突然洞窟内にこだまするけたたましいゴブリンの声、ひしひしと感じるその怒気を含んだ声は明らかに先程のゴブリン達とは違うそれだった。

 

 「何かとんでもないのが来そう...」

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