第13話 アルカプルル
『ご主人様きます!右上方です!』
「クッ!」
両腕で顔をブロックし出来るだけ背中を丸めて防御体勢になり、ローニャンの情報の元に右を向いて、敢えてその水球をクロスしている腕で受ける。ただ受けるのではなく後方に飛びながら受けるので、大きく吹き飛ばされるが、ダメージは先程ほどではない。まぁでも痛いのは痛い、ヘビー級のストレートパンチをブロック越しに貰ってるみたいだ。
『左後方!右側方!』
「フンギッ!!」
『左上方!右下方!正面やや右!』
「ググハッ!!」
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もうどれくらい受けたか分からない、まだアルカプルルはくたばらないのか!!
『右側方!あと本体からウォーターカッターが来そうです!』
そういえばそんな魔法もあったな。左に飛んでウォーターカッターを避けるも追尾してくる水球に右腹部に直撃を食らう。
「グハッ!!!」
『ご主人様3つ正面からほぼ同時に来ます!』
マジか...
「ガァガァガァァァ!!」
『ピコーン!スキル《痛覚耐性》のLv1からLv2に上がりました。』
あまりの衝撃で後方の壁まで吹き飛ばされて、壁に叩き付けられて意識が飛びそうになるが何とか堪える事が出来た。これも《痛覚耐性》のLvが上がったお陰かもな。しかし腕はもうダメだ、両前腕が折れて腕が上がらない。丁度後ろが壁なので、ギリギリまで堪えて直前で避ければ追尾は間に合わずに壁に着弾するだろう、ノーガード戦法でここで足を使って避けるしかないか。
顔を上げてアルカプルルを確認するも、アルカプルルも顔が青白く口から泡を吹いている。もう少しだ。
「オイオイ...マジかよ...」
アルカプルルの回りの水球が100個位まで増えている。先程までは一度に襲ってくるのが10数個ぐらいだったのに。そうかお前も最後の力を振り絞ってるんだな。
俺も最後の力を振り絞るよ。
《身体強化》を脚の筋肉だけに掛けるのだが、これだけでは普通の《身体強化》と変わらないだろう。より強靭で柔軟で伸縮性に富むために、筋肉を構成している筋束にまで魔力でコーティングする。
よし、成功したな。魔力が持つかどうか心配だったが、どうやら大丈夫そうだ。
『ピコーン!《身体強化》がLv1からLv2に上がりました。』
「よし、こい!捌ききってやるよ!」
そこから水球100個による集中砲火が始まり、《身体強化》と《金剛》で強化した足を使って避けれるものは避け、避けきれないものは蹴って捌いていく。今度は当たり負けしなかったが、それでもダメージは蓄積されていき、それに応じて体への被弾も増えていく。
延々と繰り出される水球攻撃にも思えたが、徐々に補充される水球が減っていき、遂には最後の一つが壁に着弾する。
「はぁはぁはぁはぁ......終わったのか?......」
本体を見るも恨めしそうにこちらを睨んでいる。
「酸欠で死んだか、若しくは魔力が尽きたか。はぁはぁ安易に刺身が食べたいなんて言うんじゃなかったわ。はぁはぁ」
両前腕も骨折してるし、恐らく両足も肉離れか疲労骨折くらいはしてそうだ...痛覚耐性とアドレナリンで何とか立ってはいたが、戦闘が終わりを告げ《身体強化》《金剛》を解くと今までに味わったことのないくらいの激痛が襲ってきて耐えきれずに倒れてしまった。手も足も動かないので芋虫見たいにモゾモゾと這って、身動きしないアルカプルルの元へ辿り着く。折れて殆ど動かせない右腕でナイフを持ち、アルカプルルのエラの後方から頭部に向かってナイフを構える。
「はぁはぁ流石は水の賢人...強かったよお前......水中なら絶対負けてたわ......美味しく頂くよ......」
戦う前は加齢臭漂ってそうなオッサンに見えた顔も、互いに死力を出し尽くした後となると、何故かちょいワルオヤジみたいにカッコよく見えてくるので不思議だ。
そのちょいワルオヤジの澄んだ目が何かを訴えているようであったが、それは命乞いなどではなく、我が生涯に一片の悔い無しと言わんばかりの目だった。
『何を見つめ合ってるのですか?キスするんですか?』
ふっおなごには理解し難い心境だろうよ。この心境はな俺とアルカプルルか、ラ○ウとケン○ロウしか解らんだよ。
「......ペッ!」
アルカプルルに唾を掛けられた。
もう腕が上がらないので頭突きでナイフを押し込む。一発で脳まで達したのか、アルカプルルの目に光が消えていく。
『ピコーン!ネームドモンスター《アルカプルル》の討伐を確認しました。スキル《水属性魔法》《魔力操作》が賦与されます。』
『ピコーン!レベルが上がりました。』
『ピコーン!レベルが上がりました。』
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《魔力操作》二つ目だけどどうなるんだろ、後は《水属性魔法》か、贅沢は言ったらアルカプルルに祟られそうだけど、どうせくれるなら火属性の方が良かったな。肉も魚も焼けるし...
『2匹目のネームドモンスターの討伐おめでとうございますご主人様。』
「あぁローニャン......疲れたな......体が殆ど動かないや......ちょっと一眠りしてから解体するか.........」
『眠るのもいいのですが、ご主人様の体は両前腕、両下腿、足指、肋骨、骨盤、背骨と20以上の骨折が見られ前回以上に出血されており、そのまま眠るとかなりの確率で目覚めないと思われます。なので取り敢えずアルカプルルは収納しておいて、ファイティングウルフの肝と生肉と聡四郎を食べてることを進言致します。』
「またかよ......食うよ......食えばいいんだろ......」
アルカプルルを収納し、目の前にファイティングウルフの肝や肉を取り出し、身体中が動かないので、うつ伏せのまま貪りついた。
『ご主人様、聡四郎が残っておりますが...』
「うる...さい......こ...の...ビ...ッ......ィ...」
『い今なんとまさかビッチと仰ったのでは、訂正してください!訂正してください!訂正してください!』
ローニャンの壊れたように繰り返される訂正を求める声が段々薄れていく。そう言えば今回はいつも答えの出ない質問を投げ掛ける血塗れの友人は出てこなかったな。
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